1膳、されど2本。_210513

 長年にわたり愛用してきたはしに、このたび手足がえました。

 それも1本ずつに、です。


 箸を胴体としたカマキリちっくなものではなく、頭が箸の、世に言う〝異形いぎょう〟姿。よくよく観察したところ、どうもななめがホームポジションらしい。絶妙なバランスで乗っているのか、頭をかしげたりするときは箸先側の手でささえるようだ。


 ところで、体のほうはというと。1膳ついのくせに、片やムキムキまっちょのランニング短パン、片や細身ほそみ御曹司おんぞうしスタイル。と、なんともチグハグなものだった。

 凸凹でこぼこコンビな彼らでも、さすがに息はぴったりのようで、仕方なしに別の箸を使おうとすると激しく抗議される。


『おい! 俺らってものがありながらヨソの男を使おうだなんて、見損なったぜ!』

『そうですよ! 僕ら、貴女の愛があってこそ体を持てたんですから、使ってください!』


 口は無いので実際にそう言っているかは分からないが、ジェスチャーから察するに、大体こんな感じで間違いないだろう。

 じゃあ、体がジャマで持てなくなったというのに、どう使えというのか? 答えはシンプル。そう、食べさせてもらうのだ。




 ――そこまで書いて、手を止める。


 なるほど、異形頭もまた擬人化には違いない。だが、求められているものはそこか? 自分の書きたいものも、これなのか?

 箸同士のBL、使用者・女との三角関係にも展開できる便利な設定。ニッチなファンには受け入れられるだろうが、何かが違う。


 抱き合ってご奉仕ほうしする。もとい、協力して食べさせる流れは捨てがたいが、とりあえず他にも書いてみるか――




 長年にわたり愛用してきた菜箸に、このたび手足がえました。

 それも、1本ずつにではなく1膳いちぜんに。


 頭にあたる部分が箸。つまり、キングなギドラに1つ足りない双頭そうとう異形頭いぎょうずなのである。

 ときおり、箸先同士を器用にぶつけてカチカチ鳴らすさまは、トングや火挟ひばさみを持った人を思わせる。おそらくはそこが口なのか、パクパクして一応はしゃべれるようだ。


「ゴ主人、ゴハン、食ウ?」


 モジモジクンよろしく、ピチッとした黒タイツをいているかのような手足。そこにカタコトさも加わって、そういう新手あらての妖怪だと言われても素直に信じられる。というより、99年など使ってはいないが 付喪神つくもがみだろうなと思っている。




 ――それだけ書いて、また手を止める。


 なぜこちらは菜箸なのかと言えば、さきのBL箸の先輩として存在させたかったからで。そして先輩だから、格好はアレだけどしゃべれるという。

 いやいや待て待て、そういうことじゃない。

 擬人化しようとした対象が箸だから悩んでいるんじゃなかったか? 1膳いちぜん1体いったいとすべきか、1本いっぽん1体とすべきかで。


 異形頭にこだわるのがいけないのだろうか。だって、完全にヒトにしてしまったらむなしくなると思ったんだ。人間 、誰しもお行儀ぎょうぎ悪く〝ねぶる〟ことがときにはあるだろう? 想像してみろ。それはつまり――


 おっと。これ以上は自主規制だ。



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1膳いちぜん、されど2本。

〔2018.09.05 作/2021.05.13 改〕

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* 黒井羊太さん主催「ヤオヨロズ企画」参加作

* 手足を生やすだけでも「擬人化」なんでしょうが、どうしてヒト型で書かないのかなと思っての今作。角刈り頭を丸坊主にしていこうぜ!


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