窓辺のシッポ_160331

 その窓辺まどべには、いつもネコがいました。

 ずんぐり大きな白い体に、黒と茶のえのぐを少しふりかけたようながら。その色合いはあわくて、とてもふんわりして見えます。

 学校の行き帰りに子どもたちが声をかけると――パタリ。いつもしっぽを1つふりかえすので、そのネコは『シッポ』と呼ばれていました。


 もうすぐ5月の、ある日のことです。

 窓辺でくつろいでいるシッポのまえを、ミカちゃんが走りさりました。しばらくすると、こんどはションボリすがたのトシくんが歩いてきます。

 ふたりはいつもいっしょで、朝だって元気にあいさつしてくれたのに、どうしたのでしょう?


 ブニャア。


 シッポはトシくんをよびとめました。手まねくように左まえ足をふるシッポに、トシくんがおどろいて窓にちかづいた、そのときです。

「どうしたの?」

 それは女の人の声でした。トシくんはキョロキョロ見まわしましたが、だれも見あたりません。

「今の……もしかしてシッポ?」

 おそるおそるトシくんがきくと、シッポは、パタパタンっとしっぽをふります。


「ネコは、しゃべっちゃいけない?」

 そのことばに、ほんとうにシッポがしゃべったのだと、トシくんは目をかがやかせました。

「どうしてしゃべれるの? いつから? ねぇ、もっとしゃべってよ!」

 だいコーフンのトシくんにこまったのか、「しずかに!」とつよい声が上がりました。トシくんは、あわてて口をふさぎます。


「みんなにはナイショにしてあるの。だって、ビックリしちゃうでしょう?」

 トシくんは、なんどもうなずきました。

「15年も生きれば、ネコだってはなせるのよ」

「じゃあ、ぼくより6つおねえさんだね」

 小声でかえってきたトシくんのことばに、おばあちゃんネコのシッポは、ふふっと笑いました。


「それで、ミカちゃんはどうしたの?」

 そのことばに、トシくんのかおがションボリします。

「ぼく、ウソついちゃったの。そしたらミカちゃん、おこって帰っちゃって……」

 ミカちゃんは、この春にひっこしてきたばかりです。同じ学年、同じクラス。家もおとなりさんなので、学校の行き帰りはいつもふたりいっしょでした。


 そうして、もうすぐ1ヶ月。クラスメイトに『またふたりで帰ってる』とからかわれて、トシくんは、つい『おとなりなんだからしょうがないじゃん!』とかえしてしまったというのです。

「ミカちゃんとおしゃべりしながら歩くの、ぼく、すっごく楽しいのに……」

 トシくんの目にしがみついていたなみだが、こらえきれなくなってこぼれました。はなをすする音ばかりがしずかにひびきます。


「……ねぇ。泣いているのは、どうして?」

 しっぽをパタリパタリさせながらきいていたシッポが、トシくんをじぃっと見すえて声をかけました。

「からかわれたことがくやしかったから? 思ってもいないことを言ってしまったから? それとも、おこらせてしまったから?」

 シッポの問いかけに、トシくんは、うつむいてだんまり。


 ブニャア。


 なき声に、トシくんはかおを上げます。シッポがうしろをじぃっと見上げているので、トシくんも、つられてレースカーテンの向こうをうかがいます。

 少しのあいだ、ひとりといっぴきがそうしていると、「わかったよ」と小さな声がしました。

「ダマしちゃって、ごめんね」

 カーテンをめくってあらわれたおばあさんは、シッポと同じ声であやまりました。


「なぁーんだ。やっぱりシッポじゃなかったのか」

「ウソつかれたのにおこらないの?」

「だって、あやまってくれたから……」

 ざんねんそうにシュンとしていたトシくんは、ハッとしました。

「ぼく、帰らなきゃ。おはなしきいてくれてありがとう。――さようなら!」

 おばあさんは手を、シッポはしっぽをふって、かけていくトシくんを見おくりました。


「なかなおり、できるといいわね」

 シッポはパタリとこたえます。

「……しゃべってあげたら良かったのに」

 こんどのへんじはパタパタンっ。おばあさんにだけはシッポの声がきこえて、ふふっとわらいました。




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窓辺のシッポ

〔2015.05.30 作/2016.03.31 改〕

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★ 第46回JX-ENEOS童話賞、公募ガイドの童話コンに応募、選外。


※初めて5枚縛りで書いた童話ゆえの思い入れからリサイクル応募したものの空振り……童話って難しい。直して公開をと思っていたのですが、時間もあきすぎたのでやめました。


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