偽にして真なるそのサイン_160902

「おっ、星新一とは渋いな」


 父の書棚から私が選び出した本を見て、意外そうな声が上がった。


「うん、文芸部の子に薦められてさ。――あ、でもこれ、ショートショートじゃなくてエッセイなのか……あれ? ねぇ、これ本物?」


 中表紙にあるサインを指差して問えば、「違うけど、偽物でもないよ」と意味不明の答えが返ってきた。理解できず静止する私を見て、父は悪戯が成功した子どものような顔で大笑いをする。


「それを買った書店の人にね、書いてもらったんだよ。こんな偶然あるんだ、ってもう、ホント可笑しくて可笑しくて……」

「――もしかして、〝星新一〟さん?」

「ご明察! 思わずサインねだっちゃった」


 父の行動力にも驚くが、それに付き合ってくれた書店員さんには惚れてしまいそうだ。



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偽にして真なるそのサイン

〔2016.09.02作〕

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※『公募ガイド』募集の「倉庫から出てきた本にサインがある理由」を400字詰め原稿用紙1枚で創作する企画にて書いた、ちょっとトンチンカンなショートショート。当然落選。


※星新一作品は、薦められて「ぼっこちゃん」を借りて読んだだけで終わっているのですが、ブラックユーモアの効いている話が好みでした。穴に向かって「おーい」と呼びかけたもの、生き死にを管理する役所仕事のものが特に……タイトル、うろ覚えすらしてないですね。(2020.06.07)



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