わたしとテスト_090922

 カリカリカリ…

 パサッ……


 テストだ。

 鉛筆を走らせる音、紙をめくる音。それ以外の音と言えば、誰かの息遣いだとか咳払いであるとか――要するに、いたって静かに解かれていく。


 パサリ……カリカリ…

 …コトッ……


 そんな教室の中で私が黙々としていることといえば、紙面に佇む問題群を解くことではない。脳内世界を描き出すことだ。しかも、テスト用紙の隙間ではなく机に。


 こうしていると、ごく当たり前のように思う。「くっだんねぇよなー」と。

 だって、たかがテストだろう? こんなもので、いったい人の何が測れるというのだ。しかも、一夜漬けで何とでもなってしまうお粗末な代物で。

 だから私は、机に脳内を描き出している。ひねくれ者と呼びたい奴は、勝手に呼べばいい。――そんなの、どうだっていいんだから。


「……おい、山田」

 後ろから落とされた低い声にビクリとすることなく、後方斜め上空を仰ぎ見た。そこには見慣れた顔がある。

「頼むから用紙内に描いてくれ。評価できん」


 ビーナスさん――美術の奈須先生が、元から渋い顔を更に渋くゆがませて私の頭にポンポンと手を置いた。私は特に何か返事するわけでもなく、ただこの小さな幸せを感じながらうつむいておく。

 この先生は机に描いても評価してくれる。それがなんだか嬉しくて、この学科の回答先だけは未だに机だ。


 私は脳内を描き出す。

 それも、アナタだけに評価されたくて机に――



===

私とテスト

〔2009.09.22作〕

=========


* 魔法のiらんど、で投稿テストを兼ねて書いたもの。


* 登場人物に名前を付けることはマレなんですが、「先生」というのは「あだ名のある存在」かなと思い付けた覚えがあります。思い返せば、呼ばせたいあだ名から本名考えることは多かったかもしれない。(2020.06.05)


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