この瞬間を待っていたッ!_221123

 今日は特別な日だ。

産声うぶごえが響き、誰もが喜びとねぎらいの声を上げる――俺が待ちに待った出産日である。


 飛びう温かい言葉にとにかく泣いた。

実際、俺も色々とがんばったワケだし、どれだけ泣いたって許されるだろう。


「さぁ、抱いてあげてください」

 お決まりの文言もんごんに胸が高鳴る。この瞬間をどれだけ焦がれていたことか!

彼女が〝妻〟でなく〝母〟になってしまったのは残念だが、それはそれでヨシとしよう。




 ハッキリとは見えない世界で、身をつつむ感触が変わる。

温かくて、どこかいい匂いがして、そして絶妙な弾力と柔らかさを合わせ持つゆりかごだ。


 これが彼女の肌、タワワな胸!

一生いっしょうれられなかっただけに、母子おやこになったとはいえかんきわまって泣き声のキーも上がろう。

『ああッ、今しばらくは俺だけのセンセイ! 俺だけの、オッパイ!』

 そんな変態発言でさえほほゆるむ「ほにゃあ」にしか聞こえないのだから、心ゆくまで騒いだあと力尽きて寝た。


 俺が、初恋の人の子どもとして無事に転生を果たした記念すべき日。この最高の瞬間と恋していた記憶は、気まぐれな女神によれば数ヶ月もすれば消えてしまうらしい。だが、そうなったところで彼女を好きな気持ちだけは絶対に変わらないだろう。

 これからは息子として、彼女を愛し、守っていくだけなのだから。




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この瞬間を待っていたッ!

〔2018.03.03 作/2022.11.23 改〕

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* エブリスタの「超・妄想コンテスト」第70回お題「今日は特別な日だ」で書いたもの。


* この前後の部分もそのうち書きたいなぁ。マザコンをこじらせて最終的に物理で世界平和を叶えるやつ。(2020.03.03)

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