12 腹打ちの痛みに耐えて鳥になる

腹打ちの痛みに耐えて鳥になる



川岸を歩いていると、朝のしじまを破る「パシャーン」という音。

川面で魚(ボラ?)が大きな水音を立てて跳ねたのだ。

5回ほどそうやってはねたら気が済んだのか、音はぴたりと静まる。

腹からバシャンと水面に落下しているが、人間ならあんな飛び込み方をすれば痛くてたまらないだろうに。

彼は痛くはないのだろうか。


水泳の飛込競技においては、大きな水しぶきを上げることは減点の対象になる。

ボラは泳ぎの専門家ではあるが、飛び込みの適性には欠けていることが今回よく分かった。

それにしてもボラは何故水面から跳び上がるのだろうか。

イワシなどの小魚がカツオやマグロなどの大型魚に追われて水面を飛び跳ねて逃げるのは、食べられたくないからということでその気持ちはよく分かる。しかし今、目の前を流れる川には小型の川魚の他には鯉しかおらず、ボラを脅かす肉食魚はいないのに何故彼は飛び跳ねたのだろう。

水中から空を飛ぶ鳥を見て、自分もああやって空を飛びたいと思い、しかし、5回やってみて、やはり自分は魚であって鳥ではないと悟り、諦めたのだろうか。


鳥は魚より進化した生き物であると学校で習った記憶がある。

5回試みてあっさりと見切りをつけたきょうのボラと違って、向上心にあふれ、努力を惜しまず、のべつ濡れている水の中の毎日に飽き飽きし、サンサンと陽を浴びる別の人生を生きたいと考えた魚がいたとしよう。

カモメのジョナサンさながら、来る日も来る日も跳ね続け、ある日ついに水に戻ることなく空を飛び始めた一匹の魚が鳥のルーツになったというファンタジーを歩きながら思いつく。

タイトルは「鳥になった魚」


物語を一つ拾えて、今日の散歩は収穫があった。

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