11   大橋に立って見上げるあかね雲




朝、いつもより20分早く家を出る。

東の空は見事な朝焼けだ。

車はまだライトをつけて走っているが、大気は雲の色と同じうす紫色に染まっている。

川に向かって一直線に伸びている通りにいるのは私一人だけ。

湖底に沈んだうす紫色の街を歩いているようだ。


今朝は少し肌寒く、ウインドブレーカーを着て来てよかった。

朝焼け空をカメラに収めるべく牛田大橋へ急ぐのは、橋の上からならば建物や電線がカメラの視野に入らないから。

噴出する溶岩を思わせる茜色の雲、この色は太陽が昇るとたちまちにして色を失い、ありきたりの雲になってしまう。

加齢とともに目覚めが早くなったからこそ出会えた幸せ。

若い頃の私もはしご酒した挙句の朝帰りに同じような朝焼けを見はしたろうが、意識朦朧の千鳥足、頭はがっくりとたれ、こんな感動とは無縁だった。

年を取るとこんな功徳もあるのだ。


フランソワーズ・サガンが「すばらしい雲」の冒頭にボードレールの詩を引用している。

『見よ、あそこに…あそこに…素晴らしい雲が!』

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