散歩の途中で聞こえてくる曲  その3

バス停で聞こえてくる曲


田舎を歩いているとバス停があり、バスの通過時間を知らせるプレートが取り付けてある。

1時間に一本しかバスが来なかったり、場合によっては朝と夕方しかバスが止まらない停留所もある。

そんな忘れ去られたようなバス停にもベンチが置かれていることがあるが、待ち時間が長いのでせめて座ってお待ちください、というバス会社の心遣いと思われる。

こんなバス停で、ぎりぎりでバスに乗り遅れ、遠ざかっていくバスの後姿を見送る時の悲哀、悔しさ、自己嫌悪は大きい。


そんな辺鄙なバス停を通り過ぎる時、私はたとえ歩き疲れていなくてもちょっとベンチに腰を下ろしてみる。

通りかかる人はなく、ただ車だけが私とは無関係に目の前を通り過ぎていく。

どんな人がこのバスに乗る人のだろうと想像する。

白昼夢を見ているような気分になることもあるが、そんなバス停のベンチに座るならば、そこが海から遠い山里であってもあの歌と夢の中をさまよいたい。

山本コウタローが『岬めぐりの バスは走る』と歌う「岬めぐり」である。


作詞の山上路夫氏の念頭にあったのがどの岬かは知らないが、私にとってこの岬は行ったことのない高知県の足摺岬だ。

50代前半で亡くなった高知県佐川町出身の友人がいた。

銘酒「司牡丹」の蔵がある、山の中の静かな町だそうな。

この歌の一節

『二人で行くと 約束したが 今ではそれも かなわないこと』

を聴くと、彼の生まれ故郷を訪れるという約束を先送りしたために、永遠にチャンスを失ってしまった苦い思いが心を浸してくる。



(歩く五七五)

乗り損ねバスの姿が遠くなる





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