7. 長靴が空を砕いた水たまり
未明まで降り続いた雨で路面は濡れている。
京橋川は雨の影響で濁った緑色をして流れている。
雨粒を葉に残している川沿いの緑は、久しぶりにたっぷり水を吸って満腹気味だ。
遠くの山の中腹には、朝日を浴びてオレンジ色に染まった靄が波打つように流れているのが見える。
車道にも歩道にも、あちこちに水たまりが出来ていて、道路には随分と凸凹があることがそれとわかる。
通勤通学者が現れるにはまだ早く、この時間に散歩をする人もいないので、誰も足を踏み入れていない水たまりは、その一つ一つが小さな澄んだ湖面だ。
街路樹や住宅がそこにモノクロの姿を映している。
日が昇り気温が上がればやがて姿を消してしまう、空からやって来た水が作った鏡。
私は大きめの水たまりを若い鹿のように飛び越えようとジャンプする。
空中で、還暦をとうに過ぎた私は自分がもはや若い鹿でないことに気づいてうろたえ、向こう岸のはるか前の水の中に落ちて靴をびしょぬれにする。
しばらくすれば長靴をはいた小学生がランドセルを背にやってくる。
長靴をはいた足で水に映った青空をガラスのように砕き、彼等は鈴のような笑い声を残して子鹿のように学校へ走って行く。
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