6. しじみ船花の川面を切り割きぬ
四月上旬のある朝。
桜は盛りを過ぎ、川には花筏が下流に向かって流れている。
早朝の静寂を破り、しじみ漁の小舟が一艘、エンジン音を響かせて川を遡って来た。
木の間越しで顔はよく見えないが、漁師が一人舵を握っている。
朝まだきの川を独り占めしていい気持ちだろうなあ。
船尾の男は、玉座に座る王のようだ。
昔、沼津の川でカヌーを漕いだことがあった。
川の上では空をグルっと360度感じたものだ。
その後、カヌーがクルリと転覆し、水中に宙釣りになった私は水面下の景色を360度見ることにもなったが。
今は昔、この太田川の支流で私たち子どもはシジミやアサリを自由に掘り、母親たちはそれを味噌汁の実にしたものだが、今は漁師しか獲ることは許されていない。
花筏の川面を切り割いたモーゼの姿は消え、彼が川面に起こした波が昇ったばかりの朝陽を浴びて、溶けたチョコレートのようになって川岸に押し寄せてくる。
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