散歩の途中で聞こえる歌  その1

雨の日には


雨の日に散歩することはまずない。

ましてや冬の氷雨の中を散歩するなどという酔狂なことは、その後でよほどうれしいことが保証されていない限りやりたくない。

秋雨も空を見上げて(まあ…やめとこう)となる。

夏の土砂降りの夕立では濡れネズミになって見た目が哀れを誘う。

しぐれの中を歩くのは、後姿が様になる山頭火に任せておこう。

しかし春雨は別だ。

それには思い当たる理由がある。


子供の頃、チャンバラをよくやった。

棒切れの剣で「えい、やあ」とサムライになりきって戦うのだが、誰に教えられたのか、よく口にしたセリフがある。

「月様、雨が…」

「春雨じゃ、濡れてまいろう」

調べてみると、これは行友 李風(ゆきとも りふう)作の新国劇を代表する作品「月形半平太」の中の雛菊と半平太のセリフ。

これがいわば「刷り込み」となり、春の雨には濡れて歩きたくなるのだろう。

しかし、もはや高齢者に分類される私が傘もなくずぶぬれになって散歩をしようものなら(徘徊老人)と見られかねない。

従って、月様の真似はやりたくても出来ず、傘をさして歩くことになるのだが、そんな時に聴きたい曲は「雨にぬれても」だ。

1969年公開のジョージ・ロイ・ヒル監督作品「明日に向かって撃て」の挿入歌で、作曲はバート・バカラック、歌っているのはB・J・トーマス。

学生の頃、ある映画雑誌が募集した映画エッセイコンテストで、この「明日に向かって撃て」をテーマに書いて応募し、最優秀賞に選ばれてポータブルテレビをもらったことがある。そのこともあってこれは忘れられない映画になった。


ポール・ニューマン演じるブッチ・キャシディがキャサリン・ロス演じるエッタ・プレイスを当時開発されたばかりの、まだブレーキのない自転車に乗せて牧場を走るシーンのバックに流れるのが「雨にぬれても」だ。

ギターの短く軽快なイントロに続いて“Raindrops are falling on my head”と始まるこの歌は私の歩くリズムに完全にマッチする。

たとえ体が雨に濡れても

”It won't be long till happiness steps up to greet me”(もうすぐ幸せがやってくる)

と、心にはサンサンと輝く太陽を浴びて歩けること請け合いの歌だ。



(歩く五七五)

月様も春の雨なら濡れて行く

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