古録より

 太古の昔。

 天と地から現れた御使いが世界を造り上げた。彼らの持つ世界創造の技術は少数の人間へと受け継がれる。


『技術者』と呼ばれた彼らは世界の頂点へと君臨した。



 そして技術を受け継がなかった人間は、『技術者』の支配下におかれる事になる。

 技術者たちは何も持たない弱者にんげんに恩恵を与え、道を過たぬように王として導いた。


 正しい主導者の下、民が平和に暮らす世界。それは理想的な世界とも言えるだろう。



 『技術者こそが正義である。人間は弱者であり、愚者である。人間は与えられる恩恵を享受しているだけでいい』



 人間が独自で何かを創り出す事は許されない。また技術者に対する批判も何一つ許されない。


「まるで飼われているようだ」

 ……記録されていたある人間の発言が、当時の世界を物語っていた。


 現状に疑問を覚えても、声を上げる事ができない停滞した世界。そこで人間たちは息を潜めて暮らしていた。




 ……長い年月が過ぎた頃。突如として、一人の男が声を上げた。


 彼は人々を集めると、彼らの目の前で木と石を用いて火を起こし、言ったのである。


「見よ、我らにも火はおこせる。我々にも技術を用いてものを創り出す事が出来るのだ。その事実を否定し、進歩を奪った『技術者』は人類の──歴史の、そして未来の敵である」


 男はさらに続けた。


「──人よ立て。人間による繁栄を。世界を意のままに操る『技術者』に終焉を。今こそ共に立ち、停滞した世界に進化をもたらせ」


 そう呼びかけた男に、世界中の技術を持たぬ人間が同調した。その動きは多くの国を巻き込み、遂に状況を覆す事となる。


『技術革命』。そう人々は呼んでいる。

 革命後に英雄として祀り上げられた男は、『技術者』に対抗する政府を作り上げた。



 ──かくして、王であった『技術者』は世界に狩られる側にまわった。



 ここは人間の手で発展していく世界。強者が迫害され、弱者が繁栄をうたう時代である。

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