第4話始まり その3

 ダイニングには大きなテーブルがあってきれいな花が飾られていた。

さっきいたうちの一人が椅子を下げて僕に座るように促した。

「ありがとう。えっと君は?」

「私はヒスイと申します。お見知りおきを。」

とても丁寧な物腰でお辞儀をすると静かにおじいさんの後ろに寄り添った。

お茶を運んできたのはさっきのにぎやかな女の子だった。

「お待たせなの~。はい、翔太。豪太様も。」

香りのいいお茶だった。おじいさんは一口飲むと満足そうにアカネの頭を撫でた。

とてもうれしそうな顔であかねは微笑むとヒスイと同じようにおじいさんの後ろに寄り添うように並んだ。

さも当たり前のように、おじいさんの後ろには4人の女の子たちがいる。とても不思議だけれども誇らしい姿に見えた。

「さて、改めて挨拶が必要かな。ここにいるのは俗にいう四神と言われるものの化身だ。訳あって、俺の仕事を手伝ってもらっている。向かって右から、アオイ、シロ、アカネにヒスイだ。」

一人ひとり頭を下げていく。

「あの…大きくなったり小さくなったりできるの?」

「それだけだはないわ。」

「そうなの~!」

アカネはそう叫ぶと小さな鳥の姿になって僕の頭に乗ってきた。

「うわっ!」

「こら、アカネ!翔太様の頭に乗るなんて!無礼ですよ。」

アオイが遠慮もなくアカネの体をつかんだ。

「まぁ、いいじゃないか。アオイ。アカネは翔太が気に入ったようだな。よしよし。」

「しかし、豪太様。これでは式神として失格です。これから主人となる方の頭に乗るなど。」

「固いことを言うな。主人といっても仮のことだ。俺はみんなが翔太の友達にでもなってくれればいいと思っている。実際お前は友達じゃないか、アオイ。」

「恐れ多い事です。豪太様。私は、翔太様とはそのような…。」

「あの、ご主人って何?僕はアオイのご主人になった覚えはないよ?それに様なんてやめてほしいな。僕はそんなに偉くないし。」

「ほら、翔太もそういってるぞ、アオイ?きちんと説明しなくてはいかんな。いいか、翔太。これから話すことをゆめゆめ忘れてはいかんぞ。とても大切な話だ。そして、これから俺のもとで修業をしてほしい。これは、俺の血を引くお前にしかできないことだ。」

「おじいさんの弟子になるってこと?でも、僕おじいさんの仕事ってよく知らないよ?」

「話したこともないからな、知らなくて当然だ。簡単に信じてもらえるようなことでもないしな。」

おじいさんはお茶を口に含んで飲むと少しため息をついた。

「この仕事は誰かがやらねばこの世のバランスが崩れてしまうんだ。誰もが知っているようで知らない世の中の理というものがある。簡単に触れてはいけない理を守るのが俺の仕事だ。時には危険なこともある。しかし、放置すれば、この世は崩壊してしまう。その手伝いをお前にしてほしい。」

僕は思わず唾をのんだ。

「そ、そんなこと…。僕何にもできないよ?」

おじいさんはいたずらっ子のように笑った。

「お前、小さい時から変なものが見えると言ってお母さんを困らせていたな。

今でも見えるのだろう。現にこの4人が見えている。いや、この4人だけではないな、この家の中におる者たちが見えているのだろう。」

変なものが見えるというと見えない人たちが困惑するから口にしてはいけないと確かに母さんに言われていた。母さんが怖いものではないからと言っていた。それでも中には時々怖いものがいるからこちらから近づいてはいけないとも。そして、ルリが来てからはそういうものは遠巻きにはいるけれど近寄ってこなくなった。

僕はアオイの顔を見た。アオイはわかっているように僕に微笑んだ。

「ルリ…。」

アオイは小さく「あっ」っとつぶやいてルリの姿になった。

「呼ばないで下さいといったのに。」

「ごめん。つい…。」

「名前を呼ばれただけでアオイが姿を変えるということは、お前にそれだけの力があるということだ。お前がつけた名前だろう。式神は名前に縛られる。力を持つ人間の言葉には強い言霊の力がある。人は知らぬ間にその力を使う。それは時に恐ろしい事態を引き起こす。名前は軽々しく扱ってはいかんぞ。翔太。」

「うん。どうすれば元に戻るの?自分で戻れるの?」

「ご心配なく。翔太様が命じてくだされば、戻ります。このままのほうがよろしければ、このままでおります。」

「あ、ルリはどっちがいいの?」

僕が恐る恐る聞くとみんなが一斉に大笑いした。

「豪太様以外ではあなたが初めてです。そんなことを聞くのは。良いですか?私たちに決まった姿はありません。私たちを見た人の思うような姿になります。ですからどのような姿にもなれるのです。ご主人様のご希望でどのような姿になるか決めていただきます。」

「え、じゃあみんなが今してるのっておじいさんの希望?」

「勘違いするな、翔太。こいつらは今、自分の気に入った姿でおる。なんでも、テレビで見た魔法少女とやらに感化されたらしいわ。こいつらにだって好きなものや嫌いなものがある。俺は無理強いするようなことなどせんわ。」

「あ、ごめん。趣味かと…。」

「豪太様に対して失礼な!」

「怒るな、ヒスイ。お前たちのいでたちが誤解を生んだんだぞ?」

意地悪くおじいさんはヒスイを見る。バツが悪そうにヒスイはもじもじとした。

「豪太様に喜んでいただきたくて…。」

消え入るような声でつぶやいた。

「アカネは気に入ってるの~」

「お話がそれておる。これではいつまでたっても終わらぬぞ。」

シロは少し、大仰な言い方をした。

「おお、そうだな。では、百聞は一見に如かずだ。行くとするか。」

おじいさんは立ち上がって4人のそれに従って部屋を出ていく。

「ついて来い、翔太。仕事場に案内しよう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る