第3話 始まり その2
膝の上に載ってきたアオイの姿は僕がよく知っているものだった。
「ルリ!」
「素敵な名前をありがとう。改めまして、私は式神。正式な名前は教えられません。言の葉の力は私たちのようなものを縛る力になるの。私はまだあなたのものではないから、ね。」
いたずらっぽく微笑んだその小さな姿はまた目の前で変化した。
「あなたがルリって呼ぶと私はあの姿になるから、気を付けてね。」
ルリは僕が一人の時にだけ現れる不思議な友達だった。猫のような、いつの間にかそばにいてくれる、寂しさを紛らわしてくれるような優しい友達。
さっきまでそう思っていた。
「あ、じゃあさっきいた子たちもみんなそうなの?」
「そうですよ。あの子たちもみな式神です。今はあなたのおじい様、豪太様のしもべです。」
「おじいさん何者なの?普通じゃないとは思っていたけども。」
そうなのだ。僕のおじいさんは普通じゃない…。でもそう見えているのは僕と母さんだけだった。一度だけそのことを母さんに言ったらくすくす笑ってそのうちわかるからと言うだけだった。
「あ、豪太様がお帰りになりましたね。」
「え?」
何も音はしなかった。アオイはすたすたと部屋を出ていく仕方なく僕は後をついていった。
アオイが向かったのは玄関ではなかった。同じ2階の反対側の廊下だった。
突き当りのドアの前に立つとかしこまった礼をする。
「おかえりなさいませ。」
次の瞬間廊下全体が揺らいだような妙な感じがした。
「ただいま。お、来たか。翔太。」
いつの間にか目の前におじいさんが立っていた。誰も僕のおじいさんだといっても信じないような若い男性。ひいき目に見てもかっこいい。本人に言ったことはないけど。どうかしたら、父さんより若く見える。優しくて、強い。僕は小さなとき一目見ただけで虜になったといっても過言じゃない。
「翔太?」
呼ばれて我にかえるほど、僕はおじいさんを見つめていたらしい。
「あ、ああ。えっと、久しぶりだよね。」
「おお、そうだな。10年ぶりか、元気そうで安心した。ご苦労だったなアオイ。」
アオイは黙って深々と頭を下げた。
「ま、いろいろと話したいことがあるし。アオイ、お茶でも入れてくれないか。」
「かしこまりました。」
当たり前のように指示をしておじいさんは僕を連れ立って歩きだした。
ほんとにこの人は何者なんだ。心の声が聞こえたかのようにおじいさんは振り返るといたずらっ子のように笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます