第七話 - ウシロガミ - 2
心臓がキュッ、と細くなった。俺は何食わぬ声で「へえ、お見合い」と受話器に返す。夜の自室。いつもの近況報告のときのことである。
「そう。だから、本退院の前に、ちょっとだけ一時退院することになるんだけど……」
見合いの話は、
相手は宗二さんの知り合いの息子さん。大学卒業を控えていて、歳は離れているが、白神と過去に面識があるそうだ。ちっちゃい頃に何度か遊んでくれたそうだから……感覚としては親戚のお兄ちゃん的な感じ、だろうか?
「すげえタイミングだな」と気にしてない風を維持しつつ俺は言う。白神は今度の四月に退院が決まったばかりだ。急ぐ必要でもあったのだろうか。
『うーん……お父さんは、今を逃すと頃合いが悪い、って言ってたけどね……』
「ふうん?」
つまり、自動車免許とかをなるべく長期休暇中に取っておきたい、みたいなことか?
「高校生でお見合い、ね」
と言うと、白神は『まあねー』と苦笑した。
『でもね
「ほー。えらく燃費がかかりそうだな」
『ふふ、そうだね。でも内容に関しては私は賛成。だからお父さんの言っていることもわからないではないの。なんだけど、今回ばかりは迷っちゃってて……それで、ここはひとつ、平桐くんにお願いがあるんだ』
「お願い?」
『うん。つまりね、意見を聞かせて欲しいの。私はお見合いに行くべきか。それとも行かないべきか』
俺は、唾を飲み込んだ。
白神が自分で出した結論なら、俺はどうなっても納得しただろう。
だが意見、か――それを聞かれると正直苦しい。
やめといたら? というのが咄嗟に浮かんだ答え。だがそれは、白神の幸せを考えての言葉か? ただの打算ではないのか。白神のことが好きになってしまった俺の、単なるわがままではないのか。
よく、考えろ。本当に白神のためを思うなら、俺は何と答えるのが正解だ? 明らかすぎる結論に、俺はぐっと拳を握りしめる。
「というのも今回のお見合い、ちょっと気になることが――」
そんな風に続けようとする白神に、俺は。
「受けた方がいいんじゃないか?」
そう答えた。
さっきと同じ、何食わぬ声で。
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