第七話 - ウシロガミ - 1


 ――俺と白神叶奈しらかみかななは、友人である。


 性別は女性。同じ高校の同じクラスに通う学友で、大きな眼鏡をかけている。さらさらとした長い黒髪がチャームポイントで、服の上から見てわかるほど胸が大きい……っと、これは黙っておこう。顰蹙ひんしゅくを買うかもしれないから。


 さて、ここからが大事なのだが、あいつは俺の命を救ってくれた。ある時あいつは俺をかばってナイフで刺され――東京の病院に入院することになったのだ。


 最初は頭が上がらなかった。体調が心配だったし、罪悪感……のようなのもあったかもしれない。入院中の白神に、俺は学校や街での出来事を報告した。罪滅ぼしになると思った。今考えれば嫌味な行動だったかもしれないが、白神は喜んでくれた。少なくとも表面上は。


 久々に電話をかけたのは、白神の力が必要になったからだ。俺がナイフで刺されそうになったあの事件を、解決に導いたその頭脳。私立探偵もかくやという知識と推理力を求めて、俺は白神に連絡を取った。抵抗はあったが、他に相談できる奴がいなかった。以前の事件と状況が似ていたのもある。白神は喜んで力になってくれて、お陰で事件は丸っと解決した。俺は白神の助力に感謝し、またとある後輩からは大いに感謝されることになった。白神は、またいつでも頼ってくれていいからねと、自分ごとのように喜んでくれた。


 それから俺は、白神にちょくちょく相談するようになった。白神に意見を聞きたい事柄を勝手に『白神案件しらかみあんけん』と名づけ、それが発生するたび、白神と一緒に解決を図った。電話で話すことが珍しいことではなくなり、そのうち近況報告も電話になった。今年の正月に白神の父親と話せたこともあって、俺の中にある白神への引け目は、少しずつ、雪が溶けるようにゆっくりとだが、薄くなっていったように思う。


 つい先日、俺は行きつけの医者からこんな診断を受けた。お前は、白神のことが好きなのだろうと。目からうろこだった。

 気がつけば俺は、白神に惚れていたのだ。多分だけど、下手をしたら初めて出会ったその時から、きっと俺はあいつのことが好きだった。

 やれやれ、と俺は頭を抱えた。俺はそれまで、誰かを好きだと思ったことはない。十七にもなって初恋だ。


 体験してみればそれは、難儀なんぎな感情だった。敬愛であり、友愛であり、親愛であり、性愛であり――支配欲であり、独占欲でもあった。相手の幸せを心から願っている。同時に、自分だけのものにしたくてうずうずしている。こんな不条理、世間の奴らはどうやって制御しているんだろう。「一般人すげぇな」と俺は夜、頭を抱えながら眠りにつくことが増えた。


 まあ、そんなこんなで。


 俺と白神の関係は、まだ友人。

 しかし俺は白神が好きで、白神がどう思ってるかはわからない。そういういわゆる《片想い》の様相を呈しつつあった、わけなのだが――ある日、白神がこんなことを言い出した。

 

平桐ひらぎりくん……私、お見合いすることになっちゃいそう』

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