第五話 - ヌラリヒョン - 5
その後、俺たちはいくつか、レディース中心のアパレルショップを回った。
「ね、祐士くんどーお? 似合う?」
最初の店、試着室から姿を現した姉貴はケープコートに黒のセーター、タイトなミニスカート、ロングブーツを合わせていた。大人っぽい綺麗めなスタイル。
「いいんじゃないっすかね」
ドラマに出てきそうな感じだ。
「先輩、こっちも見て下さい。どうっすか! 似合ってますでしょうこれは!」
姉貴が出てきた試着室の隣、しゃっとカーテンを滑らせて中から八重子が出てくる。
こちらは白を基調とした肩口広めのニットに、元々履いていたデニムのショーパン、そしてスニーカーという出で立ち。おお、シンプルながら、いい感じだ。アウトドアな感じがして八重子っぽいし、よく似合っている。だが……。
「なんか、風邪ひきそう」
「か、風邪ひきそう……!?」
俺の台詞に八重子はギョッとする。
「おう。このニットかなり薄手だし、店内なら暖房が利いてるが、外に出たらなんか寒そう」
うんうん、と俺は頷く。八重子はストッキングとか嫌いなようだから、必然的に素足を出すタイプのファッションになる。こいつだって女子なんだし、あんまり身体を冷やすのはよくない。だから、そうだな……。
「トップスはもう少しボリュームがあった方がいいんじゃないか?」
すると八重子が「なっ!?」と火のように反応する。
「どうせボリュームのないトップスですよ! 先輩のバカ! スケベ!」
「は?」
いや、コートとか羽織るとかすればいいのではという話なんだが、変な勘違いをしてないか……?
――次の店。
「じゃじゃーん、どーお祐士くん?」
試着室から出てきた今度の姉貴は、ピンクのモールニットを黒いチェック柄のスカートにシャツインし、ショートブーツを履いていた。 ショルダーポーチでアクセントも演出している。
「いいんじゃないっすかね」
映画に出てきそうな感じだ。
「先輩、今回は私いけちゃいましたよ! 絶対似合ってますよこれは! ちょっと確認してみてください早く!」
姉貴が出てきた試着室の隣、しゃっとカーテンを滑らせて中から八重子が出てくる。
上は白のハイネックセーターにニットコート。下はアクセントとしてボタンがあしらわれた、巻いてある風なデザインのミニスカートで、靴は厚底の黒スニーカーだった。おお、なるほど。かなりいい感じだ。八重子はたっぱがないためにイメージされづらいが、顔が小さい上、スタイルも均整がとれているので、大人っぽい服も全然着こなせる。だが……。
「なんか、転びそうで怖い」
「こ、転びそうで!? 怖い!?」
俺の台詞に八重子はギョッとする。
「あー、なんというか、八重子って結構走り回ったり飛び跳ねたりするじゃん? その恰好だとなんかすっ転びそうで危なっかしい」
特に厚底スニーカーがいけない。慌てて走ってすってんころりん、なんてのも全然ありそうだ。そういう意味ではミニスカートも見ていてちょっと落ち着かない。
「まあ、でもチャレンジしてみる分にはいいかもな。背も高く見えるし、意外性もあって個人的にはいいと思うぞ」
「走り回る? 飛び跳ねる? 私のイメージって……」
おい? 聞いてるかー? 八重子ー?
――三軒目。
「ほい! どうでしょうかゆーしくん!」
今度の姉貴はチョコレート色のセーターに赤いフレアスカート、ハイヒールを合わせたバレンタイン風味のコーディネートだった。レオパード柄のシュシュで髪をまとめ、大人っぽいのに抜け感もある。
「いいんじゃないっすかね」
チョコレートのCMに出てきそうだ。
「先輩! ついに! ついに来ちゃいました! 三度目の正直って本当なんすね! これは来てる! 早く見て下さい早く!」
姉貴が出てきた試着室の隣、しゃっとカーテンを滑らせて中から八重子が出てくる。
今度の八重子は髪をペイズリー柄のシュシュでまとめ、上は厚手のセーターにチェックのミドルフードコート、下はキュロットパンツ、靴はコンバースという出で立ち。ほほお、そう来たか。正直すごく似合っている。かなり良いんじゃないか? 今度ばかりは素直に褒めさせてもらおう。
「おう。八重子らしくていいと思うぞ、男の子っぽくて」
「お、男の子……っ!?」
俺の台詞に八重子はギョッとする。
「おう。……あ、いや? こういうのはボーイッシュというんだったか。それともマニッシュ? まあ、意味合いは同じだ。いい感じだと思うぞ」
「おとこのこ……わたしらしい……わたしらしさはおとこのこ……」
やっぱり聞いていない様子の八重子だが、俺は久々に充実感を感じた。
姉貴は確かにファッションが良い。というか、スタイルが良いから何を着ても普通に似合ってしまうのだ。だからなんというか――こういうと失礼だが、面白みがない。
姉貴はとにかく均整がとれている。見せるべき場所、隠すべき場所が存在しない。どこを見せてもいいし、どこを隠してもいい。自由にどんな服でも着られる。姉貴もそれをわかっていて、自由にどんな服でも着る。それゆえに、逆に個性がない。
しかし八重子はたっぱもないし、スタイルも華奢だ。童顔で、そのくせ髪はロング。また、本人のこだわりのせいで、ボトムスは素足が出るものしか着ない。しかしそれ故、それをどうやって補うか、どうせ出す脚をいかに綺麗に見せるか、そういう型のようなものが生まれる。
ハッキリ言って、八重子の服に意見する方が、姉貴の服に意見するより何倍も楽しかった。
「うう……男の子……。トップスにボリュームのない、走り回ったり飛び跳ねたりする男の子……ぐすっ……」
まあ、本人はなぜか多大なダメージを受けている様子だが。
「八重子ちゃんかわいいねぇー! 服選びめっちゃ上手♪」
姉貴のそんな台詞に、八重子はキッ! と涙目を浮かべた。いや、何故だよ。褒められているというのに、嬉しくないのか……?
「よっし、じゃあ次はこのお店ね☆」
――そうして訪れた、四軒目、である。
「……こっ、この店は……!?」と八重子が慄いた。
そこは――。
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