第4話

日曜日の朝、久しぶりの友人から連絡が来た。

有紀子は、大学病院時代の元同期の看護師である。

「ごめん、子供預けきれなくて。コブ付きだけどいい?」

「いいよー」

と笑顔で返すものの、正直子供は苦手だ。

嫌いというわけではない。

どのように接すればいいのかわからないのだ。

クリニックも、産婦人科という特性上小さな子供も来ることが多い。

母親である患者さんが内診台で診察を受けているときには、子供を見ていることも多いがその数分間すらどのようにあやせばいいかわからないのだ。

乳児の抱き方が不安定で、他の看護師に代わるように言われたこともある。

可愛いとは思うのだけど、愛苦しいに近い感覚で触れ方がわからない。

有紀子は子供を遊ばせるスペースのあるカフェを指定した。

駅から近いので、私も二つ返事で了承した。

「ゆかりん、こっちこっち」

少しふっくらしたように見える有紀子が、カフェの駐車場で手を振る。

「亜希子、久しぶり!」

少しぽっちゃりした彼女に太ったねーとは言えないし、言わない。

体重に敏感な津田さんのことが頭に浮かぶ。

あぁ、有紀子に津田さんのこと愚痴りたいなと思うけど、今、亜希子は相手として適任じゃない。

と、余計な気をまわしてしまう。

「千晴(ちはる)、おいで」

後部座席のチャイルドシートから降りてきたのは、有紀子の子供のはずだ。

「あれ?千晴ちゃん?」

記憶に残る千晴ちゃんは、確か有紀子の腕に収まる赤ちゃんだったはずである。

「そうだよー。大きくなったでしょ?千晴、紫お姉ちゃんにこんにちはは?」

いやいや、お姉さんだなんて。

「こにちは」

小さいけど、二本足で立っている生物が挨拶する。

可愛い。

否応無く、心をくすぐってくれる。

「こんにちは、千晴ちゃん」

挨拶を返すと、有紀子のもとに駆け寄る千晴ちゃんを見てやっぱり懐かれるほうじゃないなと思う。

「人見知りだからねー。でも、すぐ慣れるよ」

と、有紀子が笑う。

カフェのケーキは甘さ控えめで美味しかった。

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ひだまりの丘 ふくの 里桜 @fukunorio

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