第5話伯爵家 Crawford view

「父上、お呼びでしょうか。」


「ああ、クロフォード。昨日の夜会だが、いい人は見つかったか?なんでもずっと外に居たそうだが。」


あの場にいなかったのは父上にはバレていたのか……


「はい、まあ……」


「そうか、それは良かった。今日の午後にでも連れてきなさい。」


「は!?はい………」


危ない危ない。

危うく父上に失礼な口を聞くところだった……

父上、今日は私の仕事が休みだと知っていて……

……なんで知ってるんだ……?


昼下がりに、私はサースシー伯爵家へ向かった。

屋敷全体がつたや苔で覆われていて、とても古そうだ。

ドアが開き、小さな栗色の髪の女児と男児がこちらの様子を伺っていた。


「お兄さん、どちら様?」

「ですか?」


可愛らしい声で、2人は告げる。


「ジェルミアー?セレニアー?どこに行ったのー?」


奥から、ロゼッタ嬢の声がした。

パタパタと彼女がこちらに向かって走ってくる。


「もう、こんなところにいたの?って……え……?」


彼女は、私を見て大きく目を見開いた。

走ったせいで乱れた髪は、金髪にほんの少しの栗色の髪が混ざった色。

まろやかなピンクと煌めく金の瞳。


「ク……ク……クロフォード……様……?」


冷や汗をかきながら、彼女は叫んだ。


「お母様ぁ!お客さんです接待お願いします!失礼しますクロフォード様!」


彼女は栗色の髪ではなかったか……?


言われるがまま応接間に通される。

再び姿を現したロゼッタ嬢は、栗色の髪に戻っていた。

私が来ただけなのに、応接間には伯爵をはじめとする1家全員が集結していた。

全員栗色の髪……ではさっきのロゼッタ嬢の髪色は……?



「あの……公爵様がこんなところになんの御用で……」


オドオドしながら、伯爵が聞いてきた。

緊張のあまり公爵様と言っているが、私はまだ公爵では無い。


「ロゼッタ嬢との縁談についてだが、」


伯爵夫人が卒倒した。


「奥様!!お気を確かに〜」


「父上がロゼッタ嬢に会いたいと言っている。」


今度は伯爵が卒倒した。


「旦那様〜!」



「どうして……そんな大切なことを伝えてくれなかったんだ……?ロゼッタ……」


「あははーごめんなさいー」


完全なる棒読みとはこのことだろう。


何とか伯爵と話をし、(暫く放心していた)私はロゼッタ嬢と帰路についた。


「ロゼッタ嬢は……何か好きなことは……?」


沈黙が流れる馬車の中で、私は何とか話題をひねり出した。

「今日はいい天気ですね」レベルの質問だが、許してもらいたい。


「ええっと……あ、家事……?」


言い終わってから彼女は、しまったという顔をした。

気まずそうにこちらの様子を伺っている。

ここは何か言わないといけないとは思うのだが、なかなか言葉が出てこない。


「―――べつに……いいとは思うが……」


彼女はふわりと笑った。

とても、優しい笑顔だった。


―――――――――――――――――――――


「父上―――」


「クロフォード。入りなさい。」


父上に―――なんと言われるか不安だ。

なぜだか分からないが、まるで今から陛下に1人で逢いに行くような。

隣のロゼッタ嬢に至っては、青い顔をしてカタカタと震えていた。


「父上……」


父上は、少し驚いたような顔をした。

なんだ、私がリエドローザ嬢のような令嬢を連れてくると思っていたのか……?


「名前は?」


静かに優しく、それでも威圧感のある声で、父上は告げた。


「お初にお目にかかります……ロゼッタ……·ヴィオラ·サースシーと申します……公爵様……」


震え気味の声で、彼女は答えた。


「ロゼッタ嬢……響きのいい名前のお嬢さんだ。」

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