第4話告白 Crawford view
「私と……踊っていただけないだろうか……?」
彼女はひどく、驚いた顔をした。
まあ、当たり前の反応だろう。
話したことすらない私に、いきなり踊って欲しいと言われて驚かないわけが無い。
だが……
残念ながら私は誘い方を知らないので致し方ない……
「ええっと……なんで私なんでしょうか……」
「貴方ではいけなかったか?」
彼女の問に私はそう答えると、彼女の手を引き広間の真ん中に出た。
楽士がゆったりとしたワルツを奏で始める。
彼女は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。
その顔すら、可愛らしいと思ってしまう。
陛下はいつもこのような感情を聖妃様に抱いておられるのか?
まあ、それは置いておいて。
回る時に、少し場内を見まわす。
令嬢どもの視線は、私たちに釘付けだった。
リエドローザをはじめとする令嬢は、悔しそうに私たちを――というか「妖精姫」を睨みつけていた。
曲が終わる。
小さくお辞儀をして去ろうとする彼女をつかまえ、私は庭へ向かった。
このままさっきの場所まで戻れば、確実にリエドローザ辺りに何か言われると思ったのもあるが、私は今日までに次期公爵夫人を決めなければならないのだ。
なので、何としてでも彼女と話だけでもいいからしたかった。
「あ、あの、私に何か御用でしょうか……?」
庭の低木の脇に座り、彼女はそう切り出した。
取り敢えず、まず彼女に名前を教えてもらいたい。
「名、は?」
我ながら無愛想な言い方だとは思うが、目を瞑っていただきたい。
「えっと、サースシー伯爵家長女のロゼッタ·ヴィオラ·サースシーと申します……」
名が2つあるとは珍しいな。
面倒だからと2つも付けないという者が多いのだが。
「ロゼッタ嬢、か。響きの良い名前だな。」
ロゼッタ嬢は、少し嬉しそうな顔をした。ような気がした。
「あ、あの……」
ロゼッタ嬢が何か言いたげに口を開いた。
「申し訳ございません……失礼なのは承知なのですが、お名前って……」
名前……?
もしかしてロゼッタ嬢は、私の名前すら知らないのか?
それはなかなか傷付くな……
「クロフォード·レスト。近衛騎士団で団長をしている。」
「ああ、氷の。」
その納得の仕方は理解に苦しむので控えていただきたい。
私はべつに氷になりたい訳では無い!
「ところでクロフォード様。本題に戻るのですが、何故私はここに連れてこられたんでしょう?」
ロゼッタ嬢が可愛らしく小首をかしげる。
どう説明したものか。
というか、どうしたらいいのか。
確か、サースシー伯爵家といえば家の台所事情が良くなかったはず……
領民のために借金をしたとか。
普通に何か言いたいのだが、プライドか何かが私を阻んでいる。
私のプライドはこんなにも高かったのか……
「ロゼッタ嬢」
自分の中で数秒葛藤したあと、私は意を決した。
「私と、結婚して欲しい。」
「えーっと、あ、もしかして政略結婚ですか?」
即答された。
「サースシー伯爵家の借金を全部返済すると約束する。」
言ってから気づいた。
今のは完全にプライドが邪魔をしたなと……
素直な気持ちは喉の奥に詰まって出てこないのに、どうしてこんなことだけは平然と話せるのだろうか。
だが、彼女の返事はこうだった。
「借金返済してくださる上こんな地味な私と結婚……?次期公爵様なのに大丈夫なのですか……?」
ものすごく心配されている……
ああ、彼女と打ち解けられたならどれほど楽しいのだろうか……
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