第3話夜会 Crawford view

「クロフォード、そろそろ次期公爵夫人を決めて欲しいんだが……」


「ぐっ………」


「今度夜会を開くからそこで決めてくれるかな?」


「はい、父上……」


これは、大変由々しき事態だと思う。

その夜会に「妖精姫」が来てくれるといいのだが……




「なあペルシオ、なんか団長がいつにも増して機嫌悪いように見えるんだけど?」


「公爵から早く次期公爵夫人を決めて欲しいから今度の夜会で決めろって言われたらしい。」


「まじかよ……妖精姫来るのかな?」


「さぁ〜?」


おいお前ら。

影でコソコソ私の噂をするな。

私が誰と結婚しようと、お前らには関係ないだろう!?




煌めくシャンデリアの中、ごてごてと飾り付けたドレスを着込んだ令嬢どもを見ながら、私はため息をついた。

何故だか分からないが、私が最初に踊った令嬢が次期公爵夫人だなどという噂が流れているから、迂闊に踊れもしない。

まあ、踊る気は無いが。

会場がざわめいた。

人目を引く真っ赤なドレスを纏った1人の令嬢が不敵そうに笑っている。


「エンデレンス公爵家、リエドローザ·エンデレンス嬢がお着きです。」


リエドローザ·エンデレンス。

レスト、セルヴィールに次ぐ権力を持つ、エンデレンス公爵家の一人娘。

巷では次期レスト公爵夫人だと言われているとゼルディランから聞いたが、そんな気はさらさらない。

そういえば、そもそも「妖精姫」はここに招待されているのだろうか?

招待されていたとしても来るのかどうかも分からない。

私は壁際によると、またため息をついた。


「クロフォード様!お招きありがとうございますわ。」


私の近寄るなオーラをかいくぐって、リエドローザ嬢が声をかけてくる。

これは、相手にすると踊らされるような気がするので流した方がいい。

しかも、リエドローザ嬢は周りに取り巻きが7人もいるから、邪魔で邪魔で仕方がない。

極力近寄らないでいただきたい。


「クロフォードお兄様、リエドローザ様もいらっしゃいましたよ?令嬢方のクロフォードお兄様を見る視線がさらに甘くなってます……」


ティ――クリスティンに言われて、私は初めて会場内をそっと見回した。

確かに、気持ち悪いほどねっとりと甘い視線が降り注いでいる。


「確かに、これは流石に危ないな……」


「でしょう?リエドローザ様なんか皆さんに私が次期公爵夫人よオーラを振りまいてて怖いくらいです……」


もう一度、今度は「妖精姫」がいないかと会場内を見回す。

すると、会場の一番端のドアが僅かに開いた。

そっと、1人の令嬢が入ってくる。

誰にも来たことを悟られないように。

長い栗色の髪。

見事なまでにシャンデリアと全く同じ色のドレス。

何故だか分からないが、本当にそっくりの色合いなのだ。

王宮のシャンデリアとは色が違うのに、そっくりそのままドレスにしたような。

渡されたシャンパングラスを手に、そっと壁の花になった。

吸い寄せられるように、私は「妖精姫」に近づいて行った。

前を行く令嬢達が、サッと私の前からはける。

会場のほぼ真逆の方向――私がさっきまでたっていたあたりで、リエドローザ嬢は取り巻きとともに唖然としていた。

当の「妖精姫」は、困惑した表情で自分も横にはけようとしている。

私は、「妖精姫」の左手をそっと手に取った。


「私と……踊っていただけないだろうか……?」

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