前世平民近衛騎士だった俺は、来世を誓った姫を探し出す
第6話 前編
ふと気がつくと、見慣れた天井を見上げていた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ベッドから起き上がり、窓の外を見ると、夕暮れで赤く染まっていた。そんな空を見上げて、先程まで見ていた夢を思い出す。いや、夢と言っていいものか。あれは、前世で実際にあったことなのだから。
俺は前世で平民として生まれ、貧しい家庭を支えるため兵に志願した。剣の才能があった俺は当時の騎士団長に気に入られ、騎士になった。
そこで出会ったのが、シェルフィーツ王国の姫、ミューシェン・フィオレンツァ・シェルフィールド様だった。艷やかな茶色の髪に、この夕焼け空のような朱色の瞳。姫という身分でありながら、下の者たちを敬い、感謝を忘れず、いつも気にかけてくださった。そんな姫の全てに惹かれ、少しでも姫の側にいるため努力し、気がつけば姫の専属近衛騎士となっていた。
専属近衛騎士として過ごす日々は幸せだった。しかし、それとともに苦痛でもあった。姫を知る度に、共に過ごす度に俺は姫に惹かれていった。
しかし、俺は平民だ。本当ならば、側にいることさえ許されない存在だ。俺がここにいられるのは、ひとえに剣の才能があったからだ。剣の才能がなければ、近衛騎士どころか騎士にすらなれなかっただろう。
けれども、俺は姫に惹かれてしまった。
あの傷を知らない柔らかな肌に触れたい、民を守るためと気丈に振る舞い震えるその小さな体を抱きしめたいと思ってしまった。この手で守ることができたなら、どれほど良かったのだろうかと思ってしまった。その想いは留まることを知らず、どんどん加速していき、姫と結ばれるならと思うようにもなってしまった。
しかし、そんなある日、賊の襲撃に会い、俺は命を落とした。発明の天才でもあった姫は、幼い頃からその命を狙われていた。最近はそんなことも少なくなってきていたため、完全に油断していたところを狙われ、なんとか倒しきったものの、俺は瀕死の重症を負ったのだ。
自分の命が長くないことを悟った俺は、姫が困ると分かっていながら、想いを告げた。しかし、姫はそれに答えてくれた。来世できっとと言われたのは、俺の空耳ではないはずだ。
俺は今世では、センディオン王国という国のメイフォン公爵家の跡取りルディリオとして生まれた。4歳のころにかかった流行病で高熱を出し、そのショックで前世を思い出したようだ。
生まれ変わったことに気づいた俺は、まずまた姫に会えるかもしれないと歓喜した。身分は公爵家だ。しかもどうやら母は現国王の妹らしく、俺は王族だ。王族と結婚するなら、申し分ない身分だろう。
しかし、それはすぐに絶望へと変わった。なんと、この世界は前いた世界とは違う世界らしい。つまり、姫はこの世界にいないということだ。あまりのショックで体調を崩し、また寝込んでしまい、両親には心配をかけてしまった。
なんとか立ち直り過ごすうちに、俺が生まれたのだから、姫もこの世界に生まれているかもしれないと思うようになり、姫とまた出会ったときのため、俺は色々なことに励むようになった。お陰で、父の後を継ぎ、次期宰相になることも決まった。
でも、いくら経っても姫には会えなかった。この国にはいないのかと思い、旅に出ようと旅支度を始めると、慌てた両親と弟にルベラート帝国の第三皇女の結婚式に出てはどうかと言われた。色々な国の王族が招待されていて、どうやら結婚式の後に王族だけでパーティーをするらしい。王族の見合いをさせるためだとか。もしかしたら姫がそのパーティーに参加する王族として、またはその世話をする侍女として来るかもしれないと思い、旅に行くのを取りやめ、帝国へ行く準備をした。父が胸を撫で下ろしていたが、何故だろうか。
コンコンコン
「ルディリオ様、そろそろ御夕飯のお時間でございます」
「今行く」
夕飯を知らせに来た使用人の声に、窓から戸へと向かう。
明日はいよいよ帝国に向かう日だ。明日のためにも、今日はなるべく早くに寝ることにしようか。先程まで眠っていたのもあり全く眠くないが……。
翌朝、少しはやる気持ちを抑えながら馬車に乗ると、そこには見覚えのある男がいた。
「やあ、ルディリオ」
「何故ここにいるのか聞いてもいいだろうか、ライナーク」
「私も未婚の婚約者の決まってない王族だからね。父上に行くように言われたんだ」
中に乗っていたのは、従兄弟であり幼馴染の1人でもあるこの国の王太子ライナークだった。国王名代として行く父をちらりと見ると、どうやら知っていたようで目をそらされた。ライナークが内緒にしておくようにとでも言ったのだろう。思わずため息をついてしまった俺は悪くないはずだ。
帝国への道のりは順調に進んだ。途中で残りの幼馴染であるユーヴィス、レオン、ナシュタとも合流し、一緒に帝国へと向かった。
ルベラート帝国は古くからある国だ。一度は大陸の半分を占めていたこともあったらしいが、今はその国土も最盛期の5分の1程の大きさになっている。まあ、それでも大国であることには変わりないのだが。
第三皇女の結婚式は恙無く終わった。次は、城の大広間で開催される見合いのパーティーだ。そのままの格好で行こうとしたのだが、幼い頃から俺の世話をしてくれている執事のヨシュアに止められた。
曰く「将来の奥方様がおられるかもしれないというのに、そのような格好では失礼に当たります。もし気になる方がおられても、その格好では話すどころか相手にもされませんよ」だそうだ。姫に相手にされないというのは悲しい。仕方なく着替えることにした。
着替えて廊下に出ると、ライナーク達がいた。どうやら待っていてくれたらしい。
「随分遅かったな。何があったのか?」
「少し着替えに手間取っていただけだ」
レオンに心配されたが、それを指摘すると何故か起こるため、流すようにして言った。
「大方、着替えるのが面倒臭くて、そのまま行こうとしていただけだろう」
ユーヴィスに本当のことを言われ、体が反応しそうになるのをなんとかこらえる。幼馴染なだけあって、お見通しだ。レオンだけ何故かこういう事は分からない。他のことは合っているのに。
「おーい、3人とも。このあとパーティーあるの忘れてなーい?」
「そろそろ行かなきゃ遅刻しちゃうよ?」
ナシュタとライナークの言葉に、俺達は急いで会場である大広間へと向かった。
「わぁー。思ったよりも人多いね」
「なんでも、この大陸の未婚の王族の殆どが来ているらしいよ」
ナシュタが声を上げ、ライナークがそれに答えた。
ライナークと俺とユーヴィスが17歳、レオンとナシュタが16歳だ。その中でもナシュタは1番子供っぽく、楽しいことが大好きだ。何か分からないことがあったら、よく質問してくる。俺たちの中では末っ子的存在だ。俺も可愛がっている。
「早く帰りたい……」
レオンが呟き、俺は苦笑した。レオンはこういうことが苦手なのだ。特に婚約者がほしいと思っているわけでもない。というか、レオンは昔色々あって女性恐怖症だ。
しばらくすると、パーティーが始まり、皆挨拶周りを始める。俺たちも一旦別れて一通り挨拶すると、また壁際に集まった。周りでも挨拶周りを終えた者たちが集まって世間話というか情報収集している。女から誘うというのは恥ずかしいことなため、女達は気になる男に声をかけられようと必死だ。俺たちの方にも近づいてくる。
「……なあ、気のせいか女共が寄ってきてないか?」
「気のせいではないな」
「確かに近寄ってきてるね〜」
「ん」
体を強張らせるレオンに追い打ちをかける。上から俺、ナシュタ、ユーヴィスだ。
「ふふ、じゃあどこかのご令嬢方に声をかけようか。誰かと話していたら寄って来なくなるかもしれないしね」
そう言うライナークに頷き、5人組のグループを探す。が、見つからない。殆どが3人、多くて4人だ。こうしている間にもどんどんと追い詰めてくる女達。レオンが顔色を悪くして体を震わせている。少しかわいそうになってきた。
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