第3話

「大丈夫かしら?」


「ええ、装飾が少ない気もしますが、結婚式の主役は皇女様たち新郎新婦ですから」


「そうね」




 あっという間に数日が過ぎ、ついに第三皇女様の結婚式の日となった。今日の服は、淡い紫色のスレンダーラインのドレスだ。王女のドレスとしては地味だが、今日は結婚式。このくらいが妥当だろう。




 結婚式は滞りなく終わった。第三皇女様のシェナンテ様は、花婿であるファルムンク様の瞳の色と同じ赤色のドレスを身に纏っていた。赤いろのドレスは、シェナンテ様の金の御髪を引き立てていて、会場中の人々がその美しさに思わず見惚れてしまうほどだった。お二人はとても幸せそうで、見てるこっちまで幸せになった。




 結婚式が終わったところで、今度はお見合いパーティーだ。パーティーまでまだ時間はあるが、パーティーの内容はお見合い。私自身全くやる気がなくても、それなりに着飾らなければいけないのだ。結婚式のときに着ていたドレスだと地味すぎるためか一度着替えないといけない。自分で言うのもアレだが、私は美少女だ。そんな私を全力で着飾らせることができるとあって、ティナだけしゃなく、私の着替えを手伝ってくれるルベルド城(ルベラート帝国の城のこと)の侍女たちも大はしゃぎだ。うん、どこの世界でも女性は女性だ。




「なんてお美しい……」


「とってもお似合いですわ!!」


「本当に…、月の女神と見紛うばかりのお美しさですわ」


「ふふっ、ありがとう」




 侍女たちに全否定出来ないのが、恐ろしいところ。




 部屋に戻ってきたわたしは、すぐに侍女たちによって磨き上げられて着替えさせられた。今着ているのは、今日この日のため仕立て上げられた夜闇のようなAラインのドレスだ。




 マリンレイ王国は製糸業が盛んで、ドレスなどの衣類や布製品も盛んなのだ。糸の中でも最高峰の糸を作り出すクリスタルスパイダーを世界で唯一育てており、このドレスもクリスタルマリンスパイダーの厳選された糸を使っている。




 ワンショルダーで左肩が露出ており、左胸に白い薔薇、右腕はフレアスリーブとなっている。スカート部には小さなダイアモンドが散りばめられており、本当に夜みたいな印象を受ける。右腰のリボンがいいアクセントになっている。肘より少し短いところまで白レースの手袋で覆い、髪は複雑に編み込みサイドアップにして左肩に流す。勿論メイクもバッチリだ。侍女たち凄い、ホントに。




 時間になり、会場であるルベルド城の大広間へと向かう。普通のパーティーではパートナーとして家族や親戚、恋人にエスコートされて会場に入場するものだが、今回のパーティーの目的はお見合いである。パーティー会場にいるのはお見合い参加者であるフリーの王族たちと主催者であるファウンズ帝、宰相閣下、あと先程結婚したばかりの第三皇女様たちだ。既婚者の方々は別の場所でパーティーをしている。




 会場入りすると、既に多くの方が来ていた。ここにいる全てが王族だというのだから驚きだ。給仕からシトラスをブレンドした果実水を貰い、広間の端へと寄ってしばらくしてようやくパーティーが始まった。




 ファウンズ帝と宰相閣下からお話があったのだけれど、長かった……。何故偉い人の話はこんなに長いのだろうか。無駄なところが多すぎると思うんだ。1つのことを無駄に遠回りして言うから、余計にややこしいというかなんというか。




 さて、パーティーも始まったことだし、挨拶周りにでも行くとしよう。周りの王族たちも挨拶している。少しでも遅れると後ほど話の和に入れなくなってしまうのだから、もう辛いのなんの。こういう王族同士が集まる場所はほとんどないから、できる限り伝手を作って情報を得ないといけない。それに王族の友人というのは何のしがらみもなくとまではいかないまでも、身分関係なく対等に話せる存在だ。作るに越したことはない。




 マリンレイ王国の友好国や同盟国の王族には挨拶し終わったし、どこかのご令嬢方の輪に入ろうか。実ほ私、同性の王族の友人っていなかったりする。マリンレイやその周辺国には歳の近い方どころか同性の王族さえ少ない。いてもお母様より年上の貴婦人だったり、まだまだ喋れない赤ちゃんだったり……。そんなわけで私は今とても緊張している。




「失礼しますわ。私、マリンレイ王国の王女、ミューシエンナ・マリンレイと申しますの。お話に混ぜてもらっても?」


「まあ、もちろんですわ。皆さんも、よろしいでしょう?」


「「「ええ」」」




 良かった。断られたらどうしたものかと……。




「わたくしはクレナマリア・ヴィスカルドと申しますわ。ヴィスカルド国の第二王女ですわ」


「フォ、フォンティーナ・ユディリスです。よ、よろしくお願いします…。あ、ユディリス王国の王女です」


「アタシはヨルシャナ・レンルーだ。アミューゼ女王国のレンルー公爵の娘だな」


「ツィアローゼ・ヴァイスです〜。クメンドル公国の侯爵令嬢で、ヨルシャナとは従姉妹になりますね〜」




 クレナマリア様は金髪碧眼の気の強そうなツリ目の悪役顔の美少女、フォンティーナ様は黒髪に藍色の瞳の清楚系、ヨルシャナ様はワインレッドのポニーテールの髪と瞳の活発そうな方、ツィアローゼ様は茶髪と緑の瞳でぽっちゃり気味なおっとりとした愛嬌のある方だ。




 皆とってもいい方たちですぐに仲良くなり、ミュー、マリア、ティーナ、シャナ、ローゼと呼ぶようになった。シャナは父方のお祖母様が現女王陛下のお姉さまらしく、王家に女性がいないため次期女王になることが決まっているらしい。ちなみにシャナとローゼのお母様たちが姉妹らしいです。マリアとティーナは国が昔からの友好国で幼い頃からの友人とのこと。




「そういえば、良い殿方は見つかって?」




 ふと思い出したかのようにマリアが言う。そして、その言葉に反応するかのように私達はピタリと口を噤む。さっきまで盛り上がっていたのが嘘のようだ。




「その様子……すっかり忘れてましたわね?」




 マリアがキッと視線を鋭くして言う。




「今日のパーティーは婚約者を見つけるためのパーティーですのよ」




 その言葉に肩を揺らすのはティーナとシャナだ。マリアとティーナとシャナは王族、特にシャナは次期女王のため、できるなら今回のパーティーで他国の王族と婚約するのが望ましいのだ。




「わ、分かってはいるのですが……」


「中々良い相手が見つからなくてな……」




 ティーナは人見知りで引っ込み思案なことに加え、適齢期の未婚の異性とは家族以外に喋ったことがないらしい。相当大切にされて育ったのだろう。まあ、私も大概箱入りで(今世では)喋ったことないけど。




「ティーナはまあ、慣れていないのもありますし怖いものは仕方ありませんわ。けれど、シャナについてはどうかと思うのですわ」


「うっ……」


「ど、どんな相手がいいとかないんですか?」


「シャナの好みの方は〜、自分よりも強い方だって前に言ってました〜」


「ちなみに、シャナはどのくらい強いのかしら?」


「あら、わたくしも知りたいですわ」


「わ、私も気になります」




 ふと気になって聞いてみると、シャナにふいっと視線を逸らされた。




「毎年開催される闘技大会で優勝しています〜」


「ろ、ローゼ!!」




 シャナが言わないことに焦れたのか、ローゼが教えてくれた。




「…つまり、それって国で1番強いということでいいかしら?」




 私がポツリと小さく言うと、ビクリと身体を震わすシャナ。




「それって、ちょっと難しくありませんかしら?」


「そ、その闘技大会って男性も入っているんですよね?」


「まあな……」




 歯切れ悪く言うシャナに、私達は呆れた目を向ける。男性さえも倒して優勝してしまうシャナよりも強い男性は、この中に果たしているのだろうか……。




「そ、そういうミューとマリアはどうなんだ」


「わたくしはちゃんと探しておりますわ」


「私はいい人がいたら婚約したらいいけど、いなかったらしなくていいと言われてるから」


「ということで、話を反らして私達も巻き込もうとしても無駄ですわよ」


「グッ……!!」




 観念しなさいと言わんばかりに、シャナがマリアに詰め寄る。シャナは、ジリジリと後退りしながら視線を彷徨わせる。と、シャナの視線が私達の後ろの少し遠くの方を見てピタリと止まった。後ろが少しざわつき始める。そして、それと同時に心が落ち着かなくなり、異様に後ろが気になり始める。

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