第1話

トウキはその日、いつも通り学校をサボって、特に意味もなく朝9時半から肉まん片手にぶらぶら散歩していた。

肌を刺すような北風を感じながら、コンビニで買った肉汁たっぷりの肉まんを頬張る時間は学校に行っているよりかは、ずっと幸せだった。そんな社会的底辺な高校生の名前は「雨木 冬輝」。冬は嫌いだし、生涯輝くことのない、完全に名前と真逆の人間だ。

それどころか、もう大学受験が近づいているというのに勉強の一つもしない。だが焦りもしないし慌てもしない。早くも人生を諦めたのだ。

「雨木 冬輝」は一言で言うと、ダメ人間。不登校な上に取り柄もない。空っぽな人間。そんな言葉がピッタリだ。

飛び交う人々の言葉やカラスの鳴き声、車のエンジン音がやけに煩い。空は一面灰色。俺はこんな薄汚れた世界が大嫌いだった。

気分転換しようとポケットからスマホを取り出すと、真っ黒な画面に映るのは死んだ魚以下の目をしている、汚れた制服を着ている冴えない自分の顔。思わず眉間に皺を寄せてスマホを閉まった。

そして暗い気持ちのまま歩き出したのだった。



__で、今。

これは異世界召喚?転生?脳が追いつかない。…とにかく自分が異世界系オタクで良かったと思った。もし異世界系オタクじゃなければ、まずこの状況に気絶してただろう。

行き交う人々。いや、「人々」という表現は正しくないかもしれない。鮮やかな金髪や赤髪。雲一つないような空をそのまま閉じ込めたような空色の瞳や、生い茂る草木を連想させる緑色の瞳。中には猫や兎のような耳が生えている者もいる。これだけならまだコスプレだと言える範囲だ。

だが、空を飛ぶ深紅色の龍や目を自然と引く、美しい羽がついた人間はどう説明できるのだろうか。

これは召喚や転生の類だろうが、俺の記憶では死んだ覚えがないので多分召喚だと思う。まず、コンビニの肉まんを食べながら歩いてたら異世界召喚って。こんな間抜けな登場でいいのだろうかと、そんな呑気なことを考える。

因みに、今持っている物はスマホと肉まんと、肉まんを買ったお釣りの10円だけだ。異世界召喚されて早くも5分。これって絶体絶命じゃないか…。

文字通り金はワンコインしかない。それに、異世界で日本の金が使えるとは思えない。

「ど、どうしよう…。」

俺のか細い声は、虚しく空へと消えていった。


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