11.どっちのことも大切だから
そもそも、なんで私が祐介なんかを好きにならなきゃいけないのか。まずそこからなのだ。そう考えてみれば、別に私は祐介の事がそれほど好きでもないのかも、と思えないでもない。
「無理だね」
となれば、私は告白して玉砕されて、早々に舞台から降りることにしようか。私にとって、有栖川ちゃんはなんでもない存在なんだ。だけど、祐介には大切な人だから、祐介にはちゃんと幸せになって欲しいと思うから。
どこ目線なのだろうか、と。思わないでもないのだが、こちとらフラれることがわかっている告白をしようとしているのだ、その辺は譲歩して欲しい。
問題は二つある。一つ目は、私と祐介がその後も自然に接することができるかどうか。恐らく祐介のことだから、私に話しかけてくれるだろうが、問題は私の方だ。多分無理。
そして問題二つ目。祐介が有栖川ちゃんを好きとちゃんと気づいてくれるかどうか。彼は多分恋愛経験が0だ。少なくとも、私と出会ってからはそうだ。となれば、鈍感な主人公みたいに『これが恋?』というやつをやらなければいけないのかもしれない。そうなると面倒だ。
「……なんで私がこんなに考えなきゃいけないんだろ」
フラれるんだからごちゃごちゃ考えるのも馬鹿らしい。よし、決めた。行こう。
朱音を待ち続けて早二時間。帰ってくる気配すらない。
「帰ったんじゃないの?」
「かもな」
「帰ってないよ」
「……朱音」
廊下には待ち続けた朱音が立っていた。深刻な、いつもとは少し違う顔。見慣れたはずの彼女の顔には影が差していた。
「単刀直入に」
「おう?」
「私は別のとこに……」
「いいよ。有栖川ちゃんもいて」
「……わかりました」
「えっとね。好きだよ」
「……おう」
驚かなかった。気づいていたから。
それでも気づかないようにしてきた。自惚れだと、そう思い込んできたのは、彼女との関係を壊したくないから。
俺には、朱音を恋愛対象として見ることが出来なかった。というよりも、有栖川に出会ってしまって、出来なくなったのだ。
そろそろはっきりさせるべきだろう。俺は有栖川が好きだと。アイドルの、アリスとしてでなく、有栖川更紗という一人の女の子が。
「知ってたんでしょ」
「……まあ」
「うん。で、一応返事は聞かせてよ?」
「ごめん」
「えっ」
驚きの声は、全く別の方向から帰ってきた。その声をあげたのは有栖川で、馬鹿なのかと言わんばかりにこちらに視線を向けてくる。
「なんで……」
「あー、それ私がいる前で聞く?」
「あ……ごめんなさい……」
「ううん、いいよ。思ったより平気だし」
「ほんとに、ごめんな」
「うん、謝れ。それで終わりにしよ」
「……おう」
彼女なりの優しさ。それに甘えてしまっている。
朱音がずっと俺を想っていたことくらい気づいていたのに。本当は朱音だって泣き出したいはずなのに。それでも、今のままの距離でいようとしてくれている。
そして、俺にも勇気を出させようとしている。なんでもないこの日に告白をしてきたんだから。
なのに俺は、一歩を踏み出せそうにない。
「ヒント」
「えっ?」
「有栖川ちゃんは好きな人、いるの?」
「えっ? えっ?」
「言いたくなかったらいいけど」
「えっと……います……」
「そゆこと」
「は?」
「うん。今はまだわからなくていいかな」
そう言って、朱音は荷物をまとめて教室の扉へ。出ていくのではなく、振り返って立っている。
「帰ろ?」
そう、いつものように話しかけてきた。
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