12.心の整理と、最高の親友と

 朱音からの告白から数日、俺たちはどちらともなく互いに避けあっていた。なんとも情けない話である。


「……祐介、大丈夫?」

「大丈夫。誰が悪いとかの話じゃなくて、ちょっと気持ちの整理とかがいるんだよ」

「うん、それはわかるよ」

「夏休みにな、あいつの試合あるんだよ。絶対応援行くぞって、前から言ってたんだけどな。こんな状態じゃ、応援にもならないって……」


 というよりも、いつか、もし朱音に告白されてしまった時には、断ったとしても俺は平気な顔でいるつもりだった。だけど、今はそれができない。朱音の空元気を知っているから。無理をして笑顔を作っていることくらいはわかるから。だからこそ、俺は朱音になにも出来なくて、それがとんでもなく情けなく感じている。

 わかってる。俺がなんとかしないと何も変わらないことくらいはわかってる。俺も、形は違えど朱音が大切だから。


「はぁ……」

「あんまり抱え込みすぎないで。私もいるから、ね?」

「ありがとな。大丈夫だ」


 なにも出来ない情けなさと、有栖川にまで心配をかけてしまっている恥ずかしさをかき消すために、俺は彼女の頭を思いっきり撫で回した。






 一人、教室でうなだれてみる。有栖川には鍵を渡して先に帰ってもらっている。というか、彼女はいつ母親と仲直りをするんだろうか?

 どうしても、今朱音に会いに行くのは躊躇われる。知ってる、朱音のことを思ってとかよりも、ただ俺が怖いだけなのはとうに気づいてる。それでもちゃんと向き合うべきなことも。


「おーい」

「えっ?」

「なに項垂れてんの?」

「あ、朱音?」

「以外に見えるなら病院行こ?」

「ああ、いや、朱音だ」

「うん」


 何事も無かったかのように、朱音は今までと同じ屈託のない笑みを向けてくる。その笑顔を見るのが、今は少しだけ辛い。


「……あはは、やっぱりちょっとキツいね」

「無理しなくてよかったのに」

「無理してんのはどっちよ……気づくよ、祐介が私と元に戻りたいって頑張ろうとしてくれてることくらい。だって、私は祐介のこと隣で見てきたんだもん」

「……ごめんな」

「謝るなっての。私は私の勝手で祐介が好きになって、私の勝手で告白しただけ。終わり!」

「終わりか……」

「文句が?」

「ない」

「よろしい。じゃあ、帰ろっか」

「そう……だな」


 朱音の優しさに、強さに甘えてしまっている。それが情けないと思いながらも、満足してしまっている自分がいる。


「私のことはどうでも良くて」

「良くない」

「有栖川更紗ちゃん」

「……が、どうした?」

「あの子のこと、どうなの?」

「……さぁな」

「誤魔化さない」

「……好きだよ、多分」

「……そっか。わかった」


 吹っ切れたように朱音は笑う。屈託のない、いつも通りの魅力的な笑顔。嬉しそうな、楽しそうな、少しだけ悲しそうな、そんな笑顔。


「頑張れ」

「……おう」


 そんな親友の笑顔に、俺はまた助けられてしまった。

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