EP. 1異世界転移
見た事も無い渦の様な穴。俺はその中へ、引き寄せられ、されるがまま、黙ってゆっくりとその穴へ入っていく。
穴の中は渦の見た目と同じく、暗く不気味な空間。ふと入り口の方を振り向けばもう入ってきたであろう出口は見つからない。俺は躊躇なく入った自分に溜息を軽く吐き、奥へ進む事を決心した。
「戻れないのなら、進むしか無いか……」
体感重力は何時も感じていた感覚と同じで、特に体が妙に軽かったり重かったりする感覚は無い。暫く何の手掛かりも無く5分ほど真っ直ぐ歩き続けた。
すると、目の先に漸く出口らしき白い光が見えた。白い光は近くに連れてだんだん眩しさを増していき、俺はその眩しさに耐える為に、腕で光を遮りながら、光の方へ進んでいく。
そして、光の目の前で一度止まる。目の前はただ真っ白で、それ以外何も見えない。俺は、ゆっくりと光に手を伸ばすと……涼しい風が俺の手に当たるのを感じた。
この先は外なのだろうか?そう考えながら、こんな不気味な空間にいつまでも居まいと、颯爽にその光へ俺は入った。
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光の先は……俺が手を伸ばして感じた涼しい風が一気に全身を通り抜けるのを感じた。俺はその感覚が正直に心地いいと感じた。まるで毎日溜まる苛立ちが吹き飛ぶ様な。
あたりを見回すと……そこは室外ではなく、室内だった。俺はただ一人、目の前に背もたれの高い椅子に座る黒髪の男から、真っ直ぐ伸びる幅4m程の赤いカーペットの両サイドに等間隔で立ち並ぶ鎧を着た兵士に挟まれる様に俺は立っていた。
俺は状況が飲み込めず暫くただ突っ立っていると、漸く目の前の黒髪の男が口を開く。
「良くぞきた転移者よ……状況が飲み込めないのは分かるが……此処はお前が居た世界とは別。異世界であるとまず理解して欲しい……」
俺は、急な話を理解する前に目の前に手を伸ばし、話を止めるよう伝える。
「待て。先ずは今の状況を理解させてくれ」
黒髪の男は俺の反応を見るや一瞬驚いた顔をすると、顎を触りながらうむと頷いた。
状況の理解。それは、別世界だとか目の前にいるのは誰だとかではなく、此処は何処なのかという疑問である。
先ず、俺は、両サイドに等間隔で立つ騎士に挟まれる位置に立っており、その位置は黒髪の男の所まで真っ直ぐ伸びる赤いカーペットの上だ。さらに辺りを見回す。
天井は高く、俺が立つ床から最も高い天井までの高さは約23mで、半円形状の装飾の入った天井があり、部屋の幅は横端から真っ直ぐ突き当たりまで、横36m、縦50m。そして、両サイドに立つ騎士の後ろに、等間隔に床から天井にそびえたつ金の装飾がされた柱が何本も立っている。
どうやら俺のいる部屋はかなり広い様だ。そして、赤いカーペットに両サイドに鎧を着る騎士、その俺の目の前には赤いマントの中に黒Yシャツに黒い布のワイドパンツを履いた黒髪で顔の整った男が椅子に座っている。頭には王冠が乗っかっていたので……彼は王だろうか?
それにしては俺と年齢はあまり変わらないと見える。だがこの男の見た目といい、騎士の存在といい、この部屋の装飾からして俺は……王宮にいるのだろうと解釈した。
「ここは王宮なのか……?」
黒髪の男は俺の発言にまた頷く。
「そうだ。此処は王宮。そして私は此処の王。セイブル・カサロドスだ……。話を続けても良いかな?」
「あぁ……止めて済まない。大体は状況を理解できた。後は俺が何故此処に居るかだな……」
王は俺に二度頷き、口を開く。
「此処は……お前のいた世界とは別。異世界だ。そして……済まないがこれは転移者の実験でな。お前を此処に呼んだ理由は特に無い。まさか、本当に来るとは思わなかった……。一つ聞くが……今すぐ帰りたいか?」
俺は顎に手を当てながら少し悩んでから答える。
「いいや、もし帰る方法があるなら帰る方を選ぶだろう。しかし、それをわざわざ聞くという事は、帰る方法が無いという事だろう?なら俺はそれに則り帰らないと言うだろうな」
これは、答えではない。ただの察しだ。王はどんな反応をするだろうか?
王はまた少し驚いた顔をして言った。
「ほう……?なかなか話が分かる者で助かったよ。そうだ。お前の察しの通り、この召喚は実験であり、本当に召喚されてしまった者に対して帰る道は想定していない。だからと言ってお前を部外者として追放する訳にもいかない……これはどうした物か……こんな事を聞くのは無粋だと思うが……やりたい事はあるか?」
本当に無粋だな。この置かれた状況から察するに……学校で耳にした異世界転移とはこの事だろうか。しかし俺が度々に耳にしていた展開とは少し違うな……。
ただやりたい事はあるかと聞かれれば……自分をただ鍛える事……しか思いつかない。
「やりたい事……か。なら……自分を鍛えるという事しか思いつかないな……」
「ほう……鍛えるか?お前の体付きからして十分に鍛えられている様に見えるが……それでも足りないと言うなら……この世界はお前には最適かもな……」
俺は首を傾げる。鍛えるのに最適と言われれば、俺が此処に来る前の様な時間。静かな場所があると言う事だろうか?
「お前、その体付きをしていて一度も実戦をした事が無いとは言うまいな?」
「当たり前だ……邪魔する奴は潰す。それだけを考えて生きて来たからな……実際にこの拳を人に向けて使った事はある」
王は俺の言葉に、また頷いてから答えた。
「なら話は早い。お前、用心棒をやってみないか?」
「用心棒だと……?これ程までに騎士がいるのに、俺を雇うというのか?」
王は俺の言葉に首を横に振って否定する。
「そうではない。この国の用心棒だ。と言ってもそこまで大きな事ではない。先ず、ギルドという場所に行け。そこで何らかのトラブルに巻き込まれた民や、問題を起こした者の制裁、何らかの仕事をそこでは毎日の様に募集している。どうだ?」
要するに問題の解決か。それも物理的な……。面白い。どこまで俺の力がこの世界で通用するか、試すのも悪くない。俺は、快く引き受ける。
「それはなかなか良い。俺の力試しをさせてもらおう」
「では決まったな……。お前、聞き忘れたが名を何という?」
そういえばと俺は名乗る事を思い出し、その名を答える。
「俺の名は……荒神 真だ……」
異世界に転移したら用心棒になったので、とりあえず邪魔する奴は潰します。 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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