始発もまだ走らない早朝。


朝方の雰囲気がなぜだか私は好きだった。

街の何とも言えない静けさ、

淀んだ空気と活気を帯び始める空気の混ざり合った雰囲気。


学生の頃は朝まで飲んで、始発を待つあの生産性のない時間が

何だか背徳感のある特別な空間だった。


社会に出てから、その特別は焦燥に変わった。

翌日の出社を気にし、睡眠時間を気にし、

無計画な朝帰りは目に見えて少なくなった。


これが責任を持つ事だと言われるけれど、

心の中の何かに蓋をしたような気分だった。



それでもあの人の家で迎える朝は、私にとって変わらず特別だった。



家飲みの後の気だるい身体で、硬い床に寝転ぶ。

投げ渡されるブランケット。

扉を挟んで向こうにいるあの人ととりとめない話をする午後4時。


何にも変えがたい時間。

一緒に寝るわけでも、何かするわけでもない。


新聞配達のバイクの音、

遠くではシャッターを開ける音。


1日が始まろうとしている音と好きなあの人の声。


私だけが知っているその瞬間。


また始発を逃してしまう。

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