私の精一杯

散々振り回されたのだ。

私の好意もいいように使われてきた。


「好きな人のため」

これを侮らないでほしい。


話へのリアクションだってそりゃよかっただろう。

酒の席の付き合いだって、自分のことながらなかなかだったと思う。



いつもの帰り道、いつも通りの飲み会のあと。

いつもの通り夜道をあの人と歩いていた。


あの日は友人カップルに見せつけられた飲み会だった。


ずっと好きだった人と付き合えた友人。

幸せそうな顔。

自然と顔を寄せ合い何やらクスクスと笑い合う2人。


嬉しかった。


ただ、同時に心のどこか奥底からまたグレーな気持ちが渦巻くのを感じた。


私の状況は何なのだろう。


好きと言葉にしたら何か変わるのだろうか。

今までの私が報われるのだろうか。

ずっとずっとなりたかった、あの人の好きな人になれるのだろうか。


ただでさえ酔が回る頭の中でグルグルと思考する。

冷静さが私の中から出て行く感覚がする。


だめ、絶対にだめ。

落ち着きを取り戻すまで何も喋らないで。

その場に流されないで。


胸に秘めてきた片思いが後ろで何か言っている。


秘めてきたどころかダダ漏れだったのだが。



あの人が振り返る。


私をまっすぐに捉える目を見たとき、

気づいたら口から言葉が溢れ出た。



「好きです」



あの人は笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る