お題:はんぜい【反噬】 ①動物が恩を忘れて飼主にかみつくこと。

 ボクは狼だ。

 装備するものが無いので安上がりでいいとママは言っている。スキルは宝探し。人間には見えないくらい遠くから宝箱の在処が探知できる。地面に埋もれているものも見つけられる。ただボクの前足だと1段しか掘れないのでドワーフ族のツルハシにお願いすることになる。あと狼には癒やしスキルがあり、戦闘中でないときはパーティ全員のHPとMPを徐々に回復することができる。


 お姉ちゃんは宝石集めが好きだったのでドワーフでゲームをはじめて、今はダイエット?をするとかいってモンクにクラスチェンジしている。いつも暴力的でボクを殴ってくる。


 パパは勇者を10年やっている。

 ボクがこの世界にログインする前に一度魔王を倒したとか言っていたけど怪しいものだ。レベルはMAX99でカンストしているけど装備もアクセサリーもアバターも地味でダサい。ホブゴブリンなんかにもよくやられそうになっているし、そのたびにママがヒーリングして助けている。


 ママは魔女で強力な攻撃魔法を操る。空飛ぶモンスターなんかはボク達の物理攻撃が届かないのでサイクロンという竜巻魔法で一掃してくれたりする。


 リアルの世界でボク達家族はあまりお話をすることがない。

 朝はパパもママもボクが起きるより早く出勤してしまうのでいつも自分でトーストを焼いてミルクで流し込んで学校へ行く。晩御飯もすぐに食べ終わって会話がない。

 でもそのあとでネトゲにログインして冒険する。不思議とこの世界の中ではいっぱいおしゃべりができる。学校のことテストのこと、そういった現実的な話題はもちださないのがルールなので気が楽だ。


 今日の冒険の目的地は少し遠い炭鉱だ。

 前々からお姉ちゃんと計画を練っていて、ボクの鼻ではあの炭鉱の第七階層の岩の下にダイヤモンドが眠っているということを知っていた。明日はママの誕生日なので、それを掘ってプレゼントしようという計画だ。

 ただモンスターもそれなりに強いのでボク達だけでは無理。パパとママの協力も必要だ。パパとママにはピクニックに行くということにしておいて、本当の計画は内緒にしておいた。


 さすがママ。炭鉱に潜むコウモリもオークも炎魔法で一掃してくれる。お姉ちゃんもパンチラッシュでずんずん突き進む。パパは盾でみんなを守ってたまに回復アイテムを飲ませてくれる。

 なんとかようやく第七階層にまで辿り着き、ここ掘れワンワンとばかりにお姉ちゃんに指示をする。今はモンクだけど前のドワーフスキルも継承しているのでお姉ちゃんがツルハシで地面を掘る。やがてキラキラと輝く鉱石が現れる。ダイヤモンドだ。

 でもお家に帰るまでが遠足だ。そのあと盗賊や魔物に襲い掛かられながらもなんとか逃げ切ってお家にたどり着いた。みんな無事だった。


「ママ誕生日おめでとう」と言ってボク達はダイヤモンドを手渡した。疲れたのでその日はすぐに寝てしまった。


 翌朝少し早く目が覚めると、ダイニングからパパとママの話し声が聞こえてきた。


「うまくいったわね」

「まさか俺が埋めておいたものだとは思わないだろうな。ハハハ」


「…」

 え?嘘?昨日の冒険はパパたちのシナリオだったってこと?ヒドイ。ボクとお姉ちゃんは都合よくだまされていた?まさかお姉ちゃんもグル?


 その夜ログインしたあとすぐボクはパパの足にガブっと噛み付いた。反抗期ならぬ反噬はんぜいだ。これだからやっぱりパパは嫌いだ。

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