お題:こんにゃくもんどう【蒟蒻問答】 話のかみ合わない会話。とんちんかんな問答。

 ある商社の最終面接に残った三人の就活生。そこで面接官が語り始める。


「これは一人一人に聞く質問ではない。三人で議論して欲しいテーマがある。我が社は来期、蒟蒻こんにゃくを一つの柱として売りだそうとしておる。そこで君たちにそのアイデアをこの場で出してもらいたい」

「蒟蒻ですか? あのおでんの具の?」

「私の質問に質問で返してはいかん。君、マイナス一点」

「e-コンニャクというのはいかがでしょうか」

「ほう」

「昨今、全てのもののデジタル化が進む世の中です。そこでコンニャクもデジタル化をはかりブームに載ってみるというものです!」

「してそのデジタル化とはどうするのだ? 電気部品にしたら食べられないではないか」

「いやそれは…。これから考えさせていただきます」

「エコ路線は、会社が環境負荷をも考えていると世間にアピールできるので有効であると思います」

「ほう」

「例えば、蒟蒻を食器などの容器にします。他にも割り箸やビニール袋の替わりとするのです!ズバリ、キャッチコピーは食べられる食器。家庭ゴミが皆無になります。蒟蒻で作った割り箸も食後に食べられます。蒟蒻袋は買い物のあとで刻んで味噌汁の具としても使えます」

「よい視点だ。さすがは女性、主婦の目線からものごとを考えておる」

「蒟蒻を

「は? 貴様は私を笑わせたいのか? それくらいのダジャレは私でも…」

「いえ、日本国民に蒟蒻を浸透させるにはキャッチィーなウリ文句が必要だと思ったまでです。一般人はまず蒟蒻など食べません。寒い冬におでんの具の選択肢にのぼるか、鍋のしらたきとして入れるくらいです。そこで、毎日食べようという習慣を作るためにさきほどの標語を使用するのです。CMでお笑い芸人にでも言わせてみてはいかがでしょうか」

「一時的には売れるかもしれないが長期的な売上にはつながらないじゃろう」

「グローバル化を進めるのはいかかでしょうか? 蒟蒻を食べているのは日本人だけですよね? 世界中の人に食べてもらえれば市場は何十倍には広がります」

「それにはコンニャクというのが、英語で表記しづらいし発音も難しい。コニャックなんてお酒もあるしまぎらわしくないか。ローマ字でもわかりやすい名称を考える必要があるね」

「パスタや麺の原料として使えば単体で販売するよりも受け入れられやすいかもしれません」

「それはもう他社がやっておる。イタリアでしらたきパスタとして販売しているそうじゃ」

「不勉強で申し訳ありません」

「よい。ちなみに蒟蒻は日本だけのものではない。韓国や中国などアジアでも生産されておる。しかし国内で流通しているのは国産のものがほぼ100%じゃ。なぜだかわかるか」

「安全性の問題かと」

「違う。蒟蒻関税といい蒟蒻だけが40%というバカ高い関税をかけておるのだ。つまり輸入したものには原価の約1.4倍の値がつく。だから外国産のものは売れないのだ。その理由は国内蒟蒻生産農家を保護するためじゃ。この関税がなければ安い外国産商品に勝てず農家が壊滅するからじゃ。さらに蒟蒻農家の九割が群馬県だ。この国の首相に群馬県出身者が多いというのも関係があるじゃろう」


「ゆるキャラを作ってはいかがでしょう。くまモンみたいにヒットする可能性はあります」

「ラノベでアニメ化を狙うのは…? そうですねタイトルは『おれのコンニャクがこんなに固いわけはない』」

「東京オリンピックのスポンサーになりましょう」

「住宅の耐震強化として使用しては? 弾力が振動を吸収できます」

「囲碁の碁石を蒟蒻で作ってみては?」


 その後もさまざまなアイデアが若者三人から提案された。荒唐無稽なものは多いがブレーンストーミングとはこういうものだ。この中から一つでも売れるものが見つかれば儲けものである。


 しばらくして面接室のドアがノックされ、白髪の老人が入ってきた。


「あ、社長」

「誰だね君は? そこで何をしておる? これから最終面接だというのに」

「あ、いえ社長が遅れるというので彼らと談笑していたところです」


 そう言って、偽の面接官は顔に貼り付けた蒟蒻製パックをとり、さらにそれを食べはじめた。


「蒟蒻問答はおしまい! 本番頑張って!」


 就活生三人の肩をぽんと叩き彼はなにごともなかったように部屋から出て行った。

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