頼る
いつの間にか眠っていて、朝になってた。
いや、一晩悩むつもりで悩んでたのに悩み疲れて眠るとか、僕そんなに図太かったっけ。
「僕いつ寝た?」
〝俺が睡眠魔法を使った〟
「!?」
犯人はヴェイグだった。
〝流石に手強かったぞ。魔力が空になった。分けてくれないか〟
「あ、うん……じゃなくて! どうして!?」
習慣って怖い。ヴェイグに魔力分けてって言われたら右手が勝手に魔力球創ってた。ヴェイグに右腕を渡して受け取るのを見届けるまでがセットで。
〝悩みすぎだと判断した。寝不足は良くない〟
「う……」
悩む、迷うって行為に時間を割くことを、僕は悪手だと考えている。やるかやらないか、なら最後にはどちらかを選ぶわけだし、問題の最終的な最適解が解らなかったら、目の前の小さな問題から解決していけばいい。
呪術に関しては、小さな問題が多すぎて僕の身ひとつでは時間がかかりすぎる。
他の人に頼る方法を考慮した上でも、たくさんの人と時間が必要になる。
いつもの僕の方法が、今回ばかりは適用を躊躇われる。
〝アルハの考えも分かる。まずは、シーラに話をしにいってはどうだ〟
「シーラ?」
シーラは以前僕と試合をした後、アイネとのパーティを解消し、その後お互いに音信不通になったと話していた。シーラから呪術の気配は感じなかったし、本人も「そんな外術には触れたくない」と拒絶反応を示していた。
「もうアイネと無関係みたいだし」
〝アイネの話をするわけではない。スキルを貸しただろう〟
「あっ」
忘れてた。
「確かにスキルという項目が増えてる。[再生]の横に、残り二日十時間二……一分に、最後の二桁はどんどん減ってるわ」
「時間制限かぁ。他のスキル試していい?」
「勿論」
「師匠、私にも何か貸してください!」
「俺も!」
シーラと話がしたい伝えたら、驚きつつも快諾してくれた。例の約束を僕の方から反故にしていることに関しては「貴方は気にしないで」と言ってもらえた。
スキルの話をするから、ついでにクラインとレウナにも同席してもらった。
「助かるよ。何にしようかな」
三人にスキル[貸与]の実験に協力してほしいとお願いすると、ノリノリで了承してくれた。ありがたい。
結果として、スキルによって貸せるものと貸せないものがあった。
一度貸すと他のスキルは貸せないらしく、シーラに新たなスキルが貸せなかったので試したスキルの数もまだ少ない。
具体的には、貸せると判明したのは[再生][武器生成][防具生成]の三つ。貸せないと判明したのは、今の所[異界の扉]のみ。
制限時間は、人によって違った。
クラインに貸した[防具生成]は五日間だったのに対し、レウナに貸した[武器生成]は二日間だった。
同じスキルを別の人に貸した結果も知りたいところだ。
「期限が切れたら、またお手伝いします!」
出来の良い弟子二人は嬉しいことを言ってくれた。
「私でよければ、いくらでも協力する」
シーラの申し出もありがたく受け取ることにした。
「誰にでも貸せるのかしら」
クラインとレウナが貸したスキルで武器や防具を創ったり消したりしているのを見ていたら、シーラがつぶやいた。
「確かに。そこも検証しないと」
ここにいるのは
「貸してる間とその後で体調が悪くなったりしないかも気になる」
「私は今の所問題ないわね」
「よかった。何かあったら、どんなことでも教えてほしい」
「承知したわ」
スキルの検証中も、ギルドの方では今回のラミア討伐についての話が進んでいた。
クラインとレウナは、僕が行くまでの間にふたりで十体のラミアを倒していた。
更に、町へ侵攻しようとするラミアを多数足止めしていた功績が認められて、ふたりとも
ここまで来たなら修行はもう必要ないよねと言ったら、ふたりから不満の声が上がった。
「まだまだ修行不足ですっ!」
「教わりきっていません!」
尤もらしいことを並べていたけど、なんだか「遊び足りない」と言っているように聞こえて、少し微笑ましかった。
月に一度は修行に付き合うからと約束を取り付けて、なんとか納得してくれた。
シーラは
それを復帰させようという話になっていたのに、シーラ自身が固辞してしまった。
「アルハがいなかったら、私は右腕を失っていた。そんな未熟者には
シーラの決意は固く、結局、恩恵の復帰は保留になった。
「ただいま」
トイサーチの自宅で、一応声をかける。
夕食の時間はとっくに過ぎた。
メルノは作業部屋でミシンを使っていて、すぐには返事がこない。
僕がいない間、ひとりの家は広くて寂しいからと作業に没頭していることが多い。申し訳ない。
ひとりでお茶を淹れて、キッチンのテーブルにつく。
〝俺は寝る〟
「うん。おやすみ」
ヴェイグは僕が結婚する前から、僕とメルノが気兼ねなくふたりきりになれるよう、いつも空気を読んでくれる。
ヴェイグ自身に好きな人は、
過去の出来事から女性が苦手というのはかなり深刻なもので、恋愛感情を抱けない、とも。
時が経てば考えが変わるかもしれないから、その時僕は今ヴェイグがやってくれているように、ヴェイグを全力で応援すると勝手に決めている。
「おかえりなさい、アルハさん。すみません、気付いてたのですが、作業が止められなくて」
メルノがぱたぱたとキッチンにやってきた。
「ううん。ただいま」
もう一度言って、そばに立ったメルノを座ったまま抱きしめる。
薬草茶と、真新しい布の独特の匂い。
「しばらく休みができた」
「はい。あの、夕食は」
メルノは僕の胸に顔を埋めながら、もごもごと応える。
「食べてきた。メルノは?」
「私も済ませました」
「うん。何か変わったことはなかった?」
「特には……」
他愛の無い会話が癒やされる。メルノ分を吸収できる。
「あのね、また呪術が撒かれてるみたいなんだ」
しばらくメルノを堪能したのち、切り出した。
「それは、つまり……」
「大丈夫。長期の旅には出なくて済むようになった」
家に帰る前に、各地の冒険者ギルドや仲間たちのところへ寄ってきた。
会った全員に[解呪]を貸すことに成功した。
「短い人で二日、ラクが一番長くて十日貸せたんだ。勿論、僕自身もあちこち出かけるけど、世界中を僕とヴェイグだけで移動することはないよ」
「よかった」
腕の中のメルノが安心した、というように僕を見上げて微笑んだ。
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