師弟

 いつでも、と声をかけた瞬間、間合いを詰められた。

 頭上から振り下ろされる剣を短剣で止め衝撃を感じた瞬間、右後方から別の剣が迫ってくる。

 最初の剣を弾いた短剣で右の剣も止めると、クラインが僕から距離をとった。

 死角から攻めたのに、僕が反応したから驚いたようだ。

 それよりも、二本目の剣のことだ。クラインは剣を一本しか持っていない。

 隠し持っていた剣を投げたとしても、方向が不自然すぎる。

 なにより、急に現れたように感じた。


「魔法じゃないね。もしかして、スキル?」


 スキル使いはディセルブの王族にしかいない、というのは間違いだ。

 この世界の人間なら、スキルを使える可能性は誰だってある。

 存在がマイナーすぎるのと、魔力のようにステータスにわかりやすく表示される指標がないため、持とうと考える人が皆無なのだ。


 僕の言葉に、クラインは完全に動きを止めてしまった。

「はい。スキルをご存知なのですか」

「僕もスキル使いだよ」

 証明するために、僕も剣を創ってみせる。

「それなら、教えて下さい」

 何故かクラインから戦意が消えてしまった。すがるような目で僕を見上げてくる。どうした。


「スキルの制御の仕方がわからない。いつか取り返しのつかないことをしてしまいそうで、怖い」




 クラインが持っているスキルは[武器生成]と[筋力補正]のふたつ。

 僕の所持スキルを訊かれて答えたらまた驚かれた。

「そんなに……一体どうやって」

「話すと長いからまた今度。クラインは、いつから持ってるの?」

「一年ほど前から、冒険者をはじめて半年くらいのときです」

 生まれつきではなく、後天的に得たもののようだ。

「レウナにパーティに誘われて、難易度Eを討伐しに行ったら、そいつがすごく強くて」

 時期的に、僕が呪いを撒いてた頃と被る。申し訳ない。

「無我夢中で、気付いたら手に知らない剣が」

 クラインの顔が曇る。

 ステータスを確認してスキルを得たことは分かった。しかし、扱い方がさっぱりわからない。

 魔物は倒せたものの、剣の威力が強すぎてレウナまで傷つけてしまった。

 その後なんとか制御しようとあれこれ試していたら、[筋力補正]まで得てしまい、いよいよ手に負えなくなった。


 それで力を抑えるあまりに、自信なさげになっていたのか。

「うーん……」

 僕も考え込んでしまった。

「難しいのですか」

「難しいというか……人にスキルを教える自信がないというか……」

 ヴェイグが[武器生成]を使えるようになったのは、ヴェイグの努力の賜物であって僕は何も教えていない。

 そもそも気付いたらできるようになってたものについて、どう人に教えたらいいかわからない。

「完全に僕の個人的な感想や感覚の話になるよ。参考にならないかもしれない」

「何もわからないよりずっといい。どうか、教えてください」

 はじめの挨拶とは桁の違う熱量で、頭を下げられた。




 まずは、スキルを思い切り使ってみて、と促した。

 ゴーレムをヴェイグに創ってもらって、僕は少し離れた場所で見守る。

 クラインもゴーレムから距離を取り、右手を翳した。

 右手の周囲に五本の長剣が創られ、それが一斉にゴーレムに向かう。

 剣の強度や速度は十分。ゴーレムは剣が当たったところを抉られ、崩れ落ちた。


 うん、なるほど。

 わからん。


「ちょっと考えを整理するね」

 クラインに一言断って背を向ける。ヴェイグと作戦会議だ。


「制御できてるよね? 的確にゴーレムにだけ当ててるし」

〝レウナの魔法を見ただろう。並の攻撃が当たっただけで崩れるようなゴーレムではない〟

「え、じゃああの威力が問題なの?」

 僕が創る刀は軽く振るだけでゴーレムを両断できる。ヴェイグも似たような威力を出せる。

 だから、スキルはこういうものだとばかり思っていた。

〝クラインとしては、普通の武器を創っただけであるのに、自信の力では再現できない威力が発生しているのが不可解なのだろう〟

「そっか。スキルの威力がわからないから、制御できないって意味なのか」

〝恐らくな。まずはそのあたりから伝えてみてはどうだ〟

「分かった」


 最初に確認作業だ。

 クラインにいつもの武器でゴーレムに挑んでもらった。

 全力で振り下ろされた剣はゴーレムの強度に勝てず、ガンッと硬そうな音をたてて弾かれた。

 次にスキルで創った剣を使ってゴーレムを斬らせる。剣はゴーレムの身体を斜めにスパンと斬り落とした。

 それを見たクラインが「うわあ……」と軽く引いた。

 その反応は、わかる。


 クラインに、スキルはそういうものだと伝え、何度か実技を繰り返すと、クラインはすぐに理解してくれた。

「それで、調節というのは?」

「練習して、身体で覚えるしかないかな」

 一応僕の感覚を頑張って伝えてはみたけど、クラインは頭の上に疑問符を浮かべて困惑を深めてしまった。本当にごめん。

 代わりといっては何だけど、練習にはとことん付き合うことにした。


 翌日からは、復活したレウナにも指導を再開した。

 スキルのことはクラインが説明してくれた。

 レウナはものすごく興味を示すも、今すぐ使えるようになるものではないと判断し、まずは魔法と向き合うことにしたようだ。

 魔法に関しては、ヴェイグの言葉を僕が伝えるという手段をとった。

 ふたりとも、ヴェイグについては薄々感づいている。踏み込んで訊かれたら全て話すつもりだ。



 修行をはじめて七日経った。ふたりは目覚ましい速さで成長している。

「ひと月も必要かなぁ。もう難易度Sは余裕でしょ」

 僕が二人を相手に手合わせして、その感触から感想を言ってみた。

 すると二人は顔を見合わせてから、揃って首を横に振る。

「師匠に手も足も出ないのに、自信持てませんよ」

 ふたりは僕のことを師匠と呼ぶ。

 やめてほしいと訴えたら「じゃあアルハ様とお呼びします」と譲歩してない譲歩案が出されてしまったので、そのままにしてある。

「大丈夫。ギルドへ連絡してみるよ。難易度Sが出てたら、請けよう」

 腰のポーチに手を入れて通信石を握りしめると、ちょうど着信があった。相手はマルア国ドゥークの町の冒険者ギルドだ。

 ドゥークといえば、以前僕が関わり降格処分になった英雄ヒーローがいた町だ。


「魔物の大群が押し寄せてきています。シーラが重傷を負って……。こちらへ来られませんか」


 クラインとレウナを伴って、ヴェイグの転移魔法でドゥークへ飛んだ。

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