3-30-3 報い返し
▼▼▼
「貴女、あんな騒ぎを起こしておいて、よくこの町でクエストを請ける気になれますね」
「は?」
アルハに絡み、メルノに暴言を吐き、アルハにめっちゃ睨まれて轟沈した女冒険者は、アルハ目当てでこの町にやってきた新参者だ。
騒ぎを起こした翌日、女は何事もなかったかのようにクエストを請けようとした。
そして、明らかに嫌悪の表情する冒険者ギルドの受付に、先程の台詞を突きつけられたところだ。
己のやらかしたことの重大さをよく理解していない女冒険者を見て、受付はこれ見よがしな溜息をつき、事務的な応対に切り替える。
「こちら、複数人での受注が推奨されますが、よろしいですか?」
「ええ」
「……それでは、頑張ってくださいね」
受付にとって冒険者とは、支援し、応援する相手という認識だ。しかし女冒険者に対しては、投げやりな態度をとった。
女冒険者は剣士だが、魔法も使う。魔力を魔法が使えるだけ持つものは、百人に一人と言われている。
その貴重な人材からパーティへ誘われて、断る冒険者は今まで一人もいなかった。
「はあ? 嫌だよ。他あたってくれ」
ギルドハウスに一人でいた男冒険者に声をかけると、にべもなく断られた。男冒険者は別の冒険者の誘いにはあっさりと乗り、その場を後にした。
「あっちいけ」
「話しかけないでくれる?」
「無理」
最早いじめか、というくらい、誰も相手にしない。返答があればマシな方で、大半は女冒険者を黙殺した。
慌てた女冒険者は、なるべく人の良さそうな冒険者を捕まえて、理由を問いただした。
「だって、アルハさんを怒らせるような人と、一緒に行きたくないですよ」
「怒らせたかしら」
「え、そこから? あんなに睨まれて、貴女も腰抜かしてたじゃないですか。あの方が怒るって、相当ですよ」
「それは……多少失言だったかもしれないけど」
「はぁ。まあ、困った人って大抵貴女みたいな言動するんですよねぇ」
「どういうこと!?」
「胸ぐら掴まないで! そういうとこですよ!」
やりすぎを悟った女冒険者が手を離すと、人の良さそうな冒険者は女冒険者から距離を取り、襟元を正した。
「アルハさんに助けられた人、というか、ティターンの時なんて殆どアルハさんが討伐したから、この町の人は皆、彼に恩があるんです。その彼のパーティを貶めるような人なんて、誰も組みたがりませんよ。じゃ、俺もこれで」
これ以上関わりたくない、とばかりに、人の良さそうな冒険者はそそくさと立ち去った。
ギルドハウスに大勢いた冒険者の殆どは、クエストへ行ってしまった。
今から、複数人で行うクエストのパーティの募集をかけても、集まらない。
女は諦めて、それでも別のクエストを請けた。路銀が心もとないのである。
「ご武運を」
受付はにこりともせず、定型文の短い応答のみで、女冒険者を追い払うように手続きを行った。
トイサーチの周辺は、他の地域と比べて魔物が少ない。
そのため、森の中で同じクエスト目標を探す冒険者と鉢合わせる機会が多かった。
「げっ」
「やだ、行きましょ」
「今日はついてないな……」
ここでも女冒険者は、他の者に避けられた。
いい加減、自分がなにをやらかしたのか、理解してきた。
町の恩人に、馴れ馴れしく話しかけ、その隣に納まりたいがために、邪魔者を退けようとした。
思い返せば完全に悪役である。
自分の浅はかな行動に嫌気が差した。
このクエストを終えたらすぐに町を出ようと決意し、討伐対象を探す。
その焦りが、周囲への注意力を散漫にさせた。
◆◆◆
“先日の女ではないか。良かったのか?”
「ここまで来て助けないもの後味悪いし」
「……っ! アルハ!?」
メルノとマリノは休養日だ。僕も今日はのんびり過ごすつもりだった。ところが今朝になって、森の中に水筒を落としていたことに気づいた。
水筒を無事に見つけた帰り道、魔物を前に倒れ込んでいる冒険者に[気配察知]で気づき、現場へ寄ったら……昨日、何か喚いてたひとだった。
念の為にフードを被っていたのに、何故か僕だと見破られた。
あまりお近づきになりたくない人だから、魔物を討伐し怪我が無いのだけ確認してすぐにその場を立ち去った。
「待って! あの……」
何か言ってたけど、全力で振り切った。
▼▼▼
女冒険者は結局、三ヶ月ほどトイサーチに滞在した。
ソロ用のクエストを請けて黙々と魔物を討伐し、滞在費を稼いだ。
そして、空いた時間はギルドハウスの隅で、やってくる冒険者をじっと観察した。
アルハを探すためではない。事実、アルハが現れても、話しかけることはおろか、近づこうとさえしなかった。
但し、アルハに絡もうとしている冒険者を目ざとく見つけては、それとなく邪魔をした。
トイサーチに、アルハ目当ての冒険者が絶えることはなかったが、この三ヶ月以降、少しだけ減ったのだった。
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