3-30-2 紫色の意思
竜の力を調整するために、異界へ移動した。
とりあえずどのくらい出力できるのか知るために、異界の地面を刀で思い切り斬りつけた。
確かに手応えがあったのに、異界の地面は一ミリも傷ついていなかった。
「僕の力より、ここのほうが不思議だよ」
片足で足踏みして、地面の感触を確かめる。土の地面と変わりない感触だ。但しそこに土や砂はない。土に近い感触の、継ぎ目のない床材が延々敷いてあるような感じだ。
“同感だ。今の攻撃、外でやれば世界が滅ぶぞ”
大袈裟、と反論できない。自分でも引く程、凄まじい力が出ていた。
その後、創れるだけ刀を創りヴェイグの魔法を纏わせて全力で落としてみたり、篭手を装備した拳で殴りつけたりもした。異界はびくともしなかった。
「何しても大丈夫なら、安心できるしいいか」
ヴェイグにゴーレムを出してもらって、それを相手に力の調整を試みる。
しばらくやっていると、黄土色のゴーレムの中に紫色のゴーレムが混じり始めた。
“なんだ、あれは”
「ヴェイグが出したんじゃないの?」
“覚えがない”
黄土色を全てなぎ倒しても、紫色は立っていた。最初に気づいた時は一体だったのに、今は二十体ほどいる。
気配はゴーレムと同じだ。魔物や呪術の気配は感じない。
「形はヴェイグが創ったのと同じだね。どういうことだろ。ヴェイグ、もう何体か創ってみて」
“わかった”
ヴェイグにゴーレムを創ってもらって、しばらく放置。すると、黄土色のゴーレムが足元からじわじわと紫色になっていった。紫色は、異界の地面を薄めた色だ。
“異界が侵食しているように見えるな”
「操作できる?」
“……いや、駄目だ。繋がりが切れたようだ”
紫色になったゴーレムたちは、その場に突っ立ったままだ。敵意や害意は感じない。ただ、意思はあるように思えた。
「どうしたらいい?」
だから、ゴーレム達に直接尋ねてみた。
一番最初に見つけた紫色のゴーレムが、両腕を振り上げた。こいこい、と僕を挑発しているようにすら見える。
戦え、ってこと?
「いいの?」
他のゴーレム達が、ごろごろと音を立てる。やれ、って言われてる気がする。
“やってみてはどうだ”
「うん」
挑発してきた一体に向かって、刀を飛ばした。刀は頭にぶつかり、ギィンと硬い音をたてて弾かれてしまった。
「硬っ」
ゴーレムは無傷で、挑発のポーズをしたままだ。
今度は刀を握って直接斬りかかった。なんとか、ゴーレムの肩に刃を食い込ませることが出来た。
“だいぶ頑丈になったな”
「うん。……じゃ、少し本気で」
竜の力を開放して、もう一度。今度はかなり手応えがあったものの、両断に成功した。
それを見て、他のゴーレムたちが一斉に挑発のポーズになった。
「これってさ……」
“俺も、そう思う”
異界が、僕の相手をしてくれてる気がする。
紫ゴーレムが出現したのはこの時限りで、その後何度やっても出てくれなかった。
異界のことは、本当によくわからない。
よくわからないけど、気まぐれ屋なのは間違いない。
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