20 警告、忠告

 メルノとマリノが、ラクとパーティを組むことになった。

 パーティの複数掛け持ちは勿論可能だ。でなければ、メデュハンでラクと組めなかった。

 冒険者ギルドへ行うパーティ申請は、意外とゆるい。

 そもそも、冒険者はクエストに行った先で即席のパーティを組むこともある。

 登録申請するかしないかで大きく変わることの一つは、報酬の受け取り方に差がでることだ。


 登録してあるパーティなら、クエストを達成するごとにパーティへと報酬が支払われる。

 パーティ内での分配は、そのパーティに所属する冒険者達に委ねられる。

 即席のパーティの場合、報酬はギルドカードに記録された情報と、個人の申請に応じて分配される。


 僕と無理矢理にでもパーティを組みたい人は、同じパーティに所属することで報酬の等分配を当てにしているのだ。やり方がこすい。


 メルノはラクにも、僕とパーティを組んでクエストへ行くときと同じことを言った。

「できるだけラクさんのご迷惑にならないよう、私達で魔物を討伐します。ラクさんは見守っていていただけませんか」

 ランクが上の冒険者に任せてしまえば楽なのに、メルノはそれを良しとしない。

 ラクはマリノにも「いいのか?」と確認してみるが、マリノは当然とばかりに頷くだけだ。

「アルハ」

 だから何故僕に確認するの。

「僕も、いつもそうしてる。勿論、危ないときは手を出すよ」

 ラクは得心がいかない、と不服そうな表情を浮かべたけど、結局は了承した。



 その日は、朝からクエストへ行くラク達3人を送り出した後、ハインとギルドハウスへ向かった。

 歓待を受けるためじゃない。

 英雄ヒーロー以上の冒険者は初めて訪れる町のギルドには必ず顔を出さなければいけない、という暗黙のルールがある。以前、トイサーチ冒険者ギルドの統括デュイネに「アルハは気にするな」と言われてすっかり忘れていた。

「俺も最近、というかアルハに出会ってからは忘れることが多いな」

 宴会好きのハインがどうしてしまったんだろう。

「実は酒はあまり好きじゃない。それに、自慢話のネタも、アルハに比べると小さく思えてしまって」

「何か話したっけ」

「それだよ。とんでもないことをしているのに、聞かれた範囲でしか話さないじゃないか」

「とんでもないこと……うーん」

 最近だと、青龍倒したことかなぁ。他に誰も見てなかったから証明しようがない。それに、ラクによれば原初の龍だって言うから倒して良いのかどうかも微妙だ。メルノを人質にされたから、思わずやってしまった感がある。

「リグロを片手で制圧したり、俺とエリオスの二人がかりで打ち合って息一つ切らさなかったりだな……」

「え、それ?」

 確かにリグロは左拳で殴ったら気絶してしまったから、片手で合ってる。手合わせは、僕は教える側だったから、必死だったよ。

 でもどちらも、自慢するようなことじゃないし、ましてや人に話すことでもないような。

「……まぁ、アルハはそのままでいいのか」

 ハインが何かを諦めた頃には、ギルドハウスの前に着いていた。




▼▼▼




「ちょっと」

 トイサーチ近郊の森の中で、メルノに声をかけてきたのは女冒険者だ。薄い金髪を頭蓋に沿わせるように編み込み、手に弓を持っている。

「アルハ様と別れたの?」

 いつもメルノ達にちょっかいをかけてくるのは、この冒険者ではない。むしろ、そうする周囲を止めようとして、パーティから外された者だ。そんな経緯をメルノは知らず、また話したこともないので、面識はない。

「いいえ」

 メルノは努めて表情を変えずに短く言って、ラクの後を追う。マリノ、ラク、メルノの順で森を進んでいるところだ。

「あ、待って。ねえ、違うなら、いいのよ」

 思いがけない言葉に、足が止まる。

「いい、とは?」

 追いついた女冒険者が、メルノに並ぶ。

「ほら、あんた達に嫌がらせしてた連中……私、止めきれなかったから。てっきり」

「どうした、メルノ? なんじゃそやつは」

 ラクが気づき、マリノを伴って行った道を戻ってくる。

 メルノが嫌がらせを受けていた話は、ラクも聞いている。故に、女冒険者に対し警戒を怠らない。

 ところが女冒険者の方は、警戒は最もだと受け止めた上で、ラクにも話しかけた。

「貴女は? いえ、私から自己紹介をすべきね。私はフロウ。見ての通り弓使いよ。メルノ、貴女に謝罪と、警告をしにきたの」



 フロウの話をまとめると、以前からアルハに纏わりつこうとし、メルノを一方的に敵視している連中が、メルノの家を襲う計画を企てているということだ。

 メルノの家には、ヴェイグが出来得る限りの結界を施している。悪意あるものは近づけず、多少の自然災害にすらびくともしないのだから、最早個人の家というより国の重要施設規模の結界だ。しかし、当事者たちは「便利で安全になった」と喜ぶだけで、事の重要さには気づいていない。

 ラクは結界とその効果を即座に見抜き、内心舌を巻いていたが、誰にも言わずにいる。

 勿論、フロウが知るところでもない。


「警告には感謝する。が、心配要らぬ。儂は、そういう事態のために、ここにおる」

 ラクが自己紹介がてらギルドカードを見せると、フロウは目を見張った。

「貴女が、ラク……様」

「様は、やめい」

 ラクが片手を振って拒絶する。

「それなら安心かしら。でも、ごめんなさい。それが何時行われるのかまでは、わからないのよ」

 行われたところで、結界が全てを守るため問題はないのだが、この場でそれを証明する手立てはない。

 ラクも説明する気はなかった。

「ふむ。儂も四六時中見張れるわけではないからのう。困ったものじゃ」

 全く困っていない雰囲気で、そんなことまで口にする。

「まあ、なんとかする。忠告かたじけない」

 話はこれで終わりとばかりに、メルノの肩を引き寄せて再び森の奥へ向かおうとする。

「呑気なことを言っている場合じゃ……」

 ラクがぎろり、と睨みつけると、フロウは金縛りにあったように動けなくなった。

「アルハはのう。あれで一生懸命演技をしておるのじゃ」

 唐突に、アルハのことを語りだした。疑問符を浮かべるのはフロウだけではない。メルノも、困惑の眼差しをラクに向ける。

「お主の背景など知らぬが、仲違いした仲間への復讐くらい、おのれで成せ」

 フロウがぎくり、と肩をすくませる。


これ以上・・・・アルハを怒らせたら……儂はこの二人すら、守り切る自信はないのじゃ」



 フロウが動けるようになったのは、ラクの姿が完全に見えなくなってからだった。

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