13 大切な絆
青龍が完全に消滅し、[気配察知]に何も引っかからない。
僕が戦闘モードを解除すると、ヴェイグがすぐに転移魔法を発動してくれた。
行き先は、トイサーチの自宅前だ。
鏡で見たメルノはキッチンの椅子に座って繕い物をしていた。
出入り口の扉を開けて中に入ると、見たままのメルノの姿があった。
「アルハさん!?」
「ただいま」
挨拶するのももどかしい。メルノの身体を上から下までざっと眺めて、怪我の有無や体調の変化を見定める。
森の中へ薬草摘みに行ってるマリノも含めて、何事もなさそうだ。よかった。
思わずメルノを抱きしめてしまう。
「はぅ!? ど、どうしたんですか?」
「メルノが無事で安心した」
「き、昨日と今日は休養日で……」
「うん。クエストも程々に頼むよ」
ふわふわのシルバーブロンドを撫でてから、身体を離した。
「ちょっと気になってね。様子を見に来ただけなんだ」
そう言って、マデュアハンに戻ろうとすると、メルノに「少しだけ」と止められた。
キッチンのテーブルに置かれたのは、一抱えもある大きな包みだ。
「先日、フィオナさんが……」
フィオナさんがメルノと会い、そこでマリノが僕の事情を喋ってしまうと、フィオナさんが各地の僕の仲間たちを呼び集めてくれたんだとか。
トイサーチに集まったのは女性ばかりで、この包みはリースが「ライドからアルハへ」と手渡してきたそうだ。
「エリオスさんという方からは、私とマリノにお菓子を頂きました。生菓子だったので、早々に食べてしまいましたが」
「僕からもお礼を言っておくよ」
一通り話しを聞いた後、目の前の包みを開けてみる。
そこには……高カロリー栄養携帯食料の詰め合わせが入っていた。
「ライド……!」
食べても太らない連盟、絆、
「え、それ」
メルノがこころなしか引いてる。この商品シリーズは確か女性には忌み嫌われていたっけ。
「ライドは来てなかったのか。体型見たいな。今どうなってるんだろう」
「あの、ライドさんというのは」
「僕に似た体質と体型でね。同じ悩みを持っているんだ」
興奮して説明が早口になってしまう。
「は、はぁ」
うん。僕らの悩みの話を女性にすると、大抵そういう反応なんだ。
まだ呪術の問題は解決してないから長居できない、とメルノに伝え、家を後にした。
マデュアハンの近くへ行くために[異界の扉]を出して中に入る。
“アルハ”
「うん」
“俺もどうかと思う”
「……うん」
いいんだ。わからない人はわからないままで。
異界を進んでいると、ラクがやってきた。
「アルハ、お主ら一体どこにいたのじゃ? 異界には居らぬし気配は分からぬし」
近づいてくるなり、そんなことを言い出す。
「探してくれてたの? 通信石……は、圏外か」
通信石は、地上では主要都市に中継局が置かれはじめ、一般庶民が持てる性能のものでもかなり遠くまで通信できるようになっている。
但し、マデュアハンの高度は想定外だ。
「上にいたんだよ。ラクなら来れるかな」
「上?」
マデュアハンのことを説明した。
「第七の大陸……もしや、青龍が眠ると言われている場所か?」
「それ倒した」
「そうか、倒したか。……倒したあ!?」
ラクのノリツッコミいただきました。
青龍との経緯を説明すると、ラクは大いに納得してくれた。
「メルノをか。なれば仕方あるまい」
ものすごく真剣な顔で何度も頷く。納得具合が深すぎて、逆に不安になるよ。
「そういえば、皆してトイサーチに来てくれたんだってね。メルノ喜んでたよ。ありがとう」
「大したことはしておらぬよ」
ラクは片手を振って、なんでもないという素振りをした。
「それで、僕を探してた理由は?」
「ディセルブの剣の間の解読が済んだでな。伝えに来た」
異界で立ったままで申し訳ないけど、そのまま話を聞いた。
「大層な文量が書いてあったが、内容をまとめたら何のことはない。黒竜と人の戦いの顛末と、お主らが持っていった剣の由来じゃ」
「黒竜と人の、って」
僕の中にいる金眼が見せた光景を思い出す。今思えば、金眼は自分が殺された情景を見せていたんだ。
「何か知っておるのか? 人間たちは、黒竜のことを知らぬようじゃったが」
“俺もアルハに聞くまで知らなかった”
「アルハは知っておったと?」
「その……ここの、黒竜が見せてくれたよ」
ここ、という時に自分の心臓を親指で指す。
ラクに配慮しながら説明できる自信がなかったから、最初に断りを入れて、視たことをそのまま全部話した。
黒竜が、人の手でバラバラにされて殺された話を。
「そのようなことを気にして聞かずにいてくれたのか。アルハらしいの」
ラクに頭をぽんぽんと撫でられた。
「今話したことの殆どが、書いてあった。剣の由来は、お主らが見聞きし考えた通りじゃの」
つまり、ヴェイグが取った黒い剣は、黒竜の身体から出てきたもの。そして、マデュアハンで白い石にぴったり嵌り、そのまま大陸深くに沈んでしまった重たい短剣は……。
“竜が死ぬと剣が残る。つまり、前に死んだ青龍のものだったというわけか”
「そうじゃ」
「えっと、黒竜も青龍も、複数いたってこと?」
「どちらも1体きりじゃ。竜は生まれ変わるでな」
竜の魂は廻るっていう話、本当のことだったのか。
「では、ここからはアルハの知らぬ話と儂の知らぬ話を合わせよう。まず、黒竜の話じゃ。黒竜は、人に殺された後から、生まれ変わっておらぬ」
「えっ、でも剣が」
今手元にあるものの他に、ラクのストーカーをしていた竜、アマドが持っていた。
「アマドの持っていた剣は別の竜のものじゃ。アルハの魔力を吸って黒うなっただけぞ。真に黒竜の剣なれば、アマドの手に負える代物ではない」
“それなら得心が行く”
「次に、アルハが視た光景の、後半について」
ラクがどんどん話を推めていく。僕はなんとかついていけている。
「黒竜の亡骸を持っていった人間どもについては、今一度ディセルブに戻り……オーカとも話をせねばならぬな」
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