34 スキルの極致
ホールは解体現場状態になっていた。
せっせと器物破損を繰り返しているのは、全員同じ軍服のような装備の男性が5人。
「やめないか! まだここは」
ボーダが僕の後ろから声を張り上げると、男性のひとりがこちらを向いた。
一番背が高くて、冷たい顔つきをしている。灰色の瞳が鋭い。
「まだいたのか。で、次はそいつか? もう諦めろよ」
「他の人も、やめてもらえますか」
さっきボーダに相手をお願いされたのは、この連中のはずだ。
言ってもやめない一人の後ろから、破壊活動をする腕を掴む。
「痛って! なにしやがっ!?」
反撃されかけたので、そのまま足を払って床に這わせた。背中を踏みつけて、動けなくしておく。
それで全員の気を引けたようだ。手を止めて、こっちに近づいてくる。
「なんだ、また冒険者サマか? 悪いことは言わないから、そいつ放して出てけ」
「モノに当たる人の言うことは聞きたくない」
「はあ!?」
もう少しボーダから話を聞く時間があればなぁ。
ええと、多分この人達は討伐隊だ。この町の討伐隊は、ギルドをよく思っていない。今までの冒険者が弱かった。多分、実力行使でこのギルドを物理的になくそうとしに来た。
「何をブツブツと……あああっ!?」
殴りかかってきた人の拳を片手で止めて、強めに握りしめた。
「えっと、力ずくで止めてもいいんですか?」
ボーダに確認してみる。ボーダは何故か口を開けて僕と、僕の手足の先を何度も交互に見ている。
「統括?」
「舐めるな! 二人を放せ!」
「あ、はい」
足をどけて、手を離す。二人は立ち上がり、慌てて他の人の後ろへ下がった。
「ボーダ、こいつでいいんだな?」
灰色の瞳の人が、両手をゴキゴキ鳴らしながらボーダになにかの確認を取る。
うん、大体予想はついた。
力ずくでオッケーだ。
僕がボーダを見て頷くと、ボーダは申し訳無さそうに「はい」と答えた。
「俺はリアスだ。お前は?」
「アルハ」
「武器を取れ。無いなら貸すぞ」
そう言うリアスは、腰の剣を抜いて構えた。
「ちょっとまって」
受付のカウンターに、短剣とヴェイグの剣、ついでに持ったままだった旅の荷物、フード付きマントを外して置く。
手ぶらで、リアスの前に戻った。
「巫山戯ているのか」
「これで十分。いつでもいいよ」
リアスに向かって、拳でファイティングポーズを取る。
「舐めたことを後悔させてやる」
死亡フラグみたいなセリフを吐いて、リアスが剣を振り下ろした。
[武術の極み]、[体術の極み]というスキルがある。これをオフにすると、武器の扱い方や身体の動かし方が途端に鈍る。チートで腕力や五感が強化されていても、有効活用できるかどうかはこの2つにかかっていた。
じゃあ、これらのスキルをオフにした状態で、武術や体術の訓練を積むとどうなるか。
答えは、訓練した分だけ動けるようになった。ここまでは普通だった。
オンとオフを切り替えて身体を動かすと、オンの時のほうが、動きの最適解に最短で辿り着く感覚がする。
オンの時の動きを覚えて、オフの時に再現できるよう、反復練習した。
自分で自分の動きに近づけるって、この時点でおかしな話だ。
時間があれば鍛錬を積み続け、ついこの前、ようやく納得できるレベルに到達した。
そうしたら、スキル一覧から[武術の極み]、[体術の極み]、あと何故か[身体能力強化]が消えた。
次にスキルの下に『能力』という項目が増え、そこに[仙の極致]と表示された。
「何これ。この世界に仙人っているの?」
“センニン?”
「そこからか。ええっと、不老不死で、変わった術が使える人」
“アルハのことか”
「不老不死は違うよね?」
“聞いたことはないな”
「むぅ。……あれ? 『能力』はオフにできないや」
“しかし、今度は『能力』か。スキルを極めるとそうなるのだな”
最初のうち、僕がスキルで何かしでかすと唖然としていたヴェイグも、最近は面白がってくれるようになった。
「ぐっ、この……!」
振り下ろされた剣の軌道を、手でそっと逸らして床を斬りつけさせる。片足の裏を剣の腹に当てて寝かせ、踏み押さえた。
「良い剣だけど、このままだと折れるよ。いいの?」
よく見るものより、剣の幅が細い。装飾が控えめに施してあって、見た目も綺麗だ。
「やれるものならっ」
「ん」
許可を貰ったので、勿体ないけど踏み折りました。
「な……本当に……」
リアスは折れた剣の柄を握りしめたまま、呆然としている。
「そういえば、勝利条件聞いてなかった。どうすれば負けを認めてくれるの?」
返事は、折れた剣の柄だった。眼の前に飛んできたそれを、指で挟んで受け止める。
さらに突っ込んできたリアスの腕をひねり上げた。
「俺達が負けるわけないだろ!」
腕を取られて情けない格好になっているのに、まともに答えてくれない。
しかも、観戦していた他の連中が向かってきた。
一旦リアスを放り出して、順に相手をしていった。
三十分後。
「次」
何巡したかは数えてない。リアスを含めて一人ずつ、僕に殴りかかってはいなされる、というのを繰り返している。
5人のうち3人はギブアップのようで、座り込んで肩で息をして立ち上がる気力もないらしい。
もう1人も腕を取ってその場で投げ、床に叩きつけたら気絶してしまった。
「次、って最後か」
リアスも呼吸が荒い。それでも構えの姿勢は崩さず、僕を睨みつけている。根性だけは凄い。
「冒険者のくせにっ」
子供みたいな文句まで口走る。
面倒くさくなったので、一息に距離を詰めて後ろに回り、首を絞め落とした。
全員をギルドハウスの隅に寄せて、手足を拘束した。
「ほんとうに、リアス達を……。ありがとうございます」
「いえ、それよりこの後どうします?」
「討伐隊の他のものをここへ呼びますので、しばらくお待ちを」
「討伐隊を呼ぶ?」
「説明が前後しましたが、討伐隊すべてがこうではないのです。ただ、リアスが上役で腕も立ちますので…」
他の人はリアスの言いなりで動いたり、動けなかったりしたわけか。
すぐにやってきた他の討伐隊は、拘束されて動けないリアス達を見て驚いていた。
「これは、一体?」
「こちらのアルハ殿が……」
やり取りのほとんどをボーダに任せ、僕は少し受け答えするだけで済んだ。
リアス達の沙汰は討伐隊が引き受けることになった。以前から横暴を働いていたようで、この機会にこってり絞るつもりのようだ。
この日は荒らされたギルドハウスの片付けの手伝いで終わり、翌日になってようやく、当初の目的の話をすることができた。
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