第三章
1 公開処刑からはじまる新章
僕がこの世界に来て、半年と少し経った。
今はメデュハンという町にいる。
世界には大陸が六つあって、ここはトリア大陸だ。
トイサーチやツェラントはアーノ大陸、ジュノやディセルブはデュウ大陸にある。
大陸同士は海で分断されていて、船がないと行き来できない。
ヴェイグのように転移魔法を使える人は少ない。使えたとしても、転移魔法で複数の人間を運ぶのは難しい。だから大抵の場合、一度は自力で現地にたどり着かなければならない。
僕らの場合は、スキル[異界の扉]を使って徒歩で来た。
この町自体に用事はない。呪術の痕跡を探し出して[解呪]するのが旅の目的だ。
呪術の痕跡を探すためには、大陸中を隈なく移動する必要がある。ここはその途中で立ち寄った。
旅では、なるべく多くの町や国を直接見て回ることにしている。そこで得られる情報を元に、呪術者にたどり着いたこともあったからだ。
そしてここからは不本意なことで……町へ寄ってしまったからには、冒険者ギルドへ顔を出さないといけない。
少し前に、冒険者ランクが
その状態でとある町へ寄り、クエストを請ける気がないため冒険者ギルドをスルーして過ごしていた。
ある日、その町で起きた揉め事に首を突っ込んだ。
すぐに警備兵がやってきて現場は収まるも、僕は身分証明を求められてギルドカードを提示した。
そうしたら、町の冒険者ギルドの統括が、わざわざ僕が泊まっている宿屋を探し出してやってきた。
「当ギルドに、なにか不手際か失礼がありましたでしょうか」
額に汗をかく統括に、こんなことを言われてしまった。
そんな話、聞いてない。
“そういえば、前に話した知り合いも、町のギルドへは必ず顔を出していたな”
「先に教えといて欲しかった」
“知り合いはいつも浮かない顔でギルドに出入りしていたからな。何かしらの
確かに、歓待を受けるためだけに必ずギルドへ顔を出せと言われたら、そんな事して貰う必要はないし面倒だ。
“すまなかったな”
「ううん、突っかかってごめん」
教えてもらってても、やっぱりスルーしてたかもしれない。
「あの、歓待とかはいいので……」
「そういうわけには参りません。今、世界に
この世界で静かに暮らしたい、という夢は、砕かれたかもしれない。
不本意とはいえ、歓待を受けるからには有益なものにしたい。
ギルドの受付さんと話をして、打ち合わせの段階であれこれお願いを出しておくと、可能な限り聞いてもらえる。
始めてのときは、おまかせにしたら統括と
というか、コースを選ぶとか、ほぼ飲み屋の予約じゃないか。しかも接待を受ける側だ。
「行きたくない」
ヴェイグにだけ聞こえる声で、本音を愚痴る。
毎回、飲み食い無しで情報交換を、と頼んでも、結局食事は出てくるし情報も有益だったことはごく僅かだ。
“替わるぞ”
「う……いや、いい」
ヴェイグの僕の真似は、初対面の人にしか通用しない。同じ姿と声なのに、表情や仕草で見破られてしまう。最近はお互いに諦めて、ヴェイグが人前に出るのは、どうしようもない時と相手が僕らの状態を知っている場合のみにしている。
なお、初めからずっとヴェイグのターン案は、ヴェイグに却下された。
“だいぶ慣れたが、やはり長時間となると疲労が溜まる気がするのだ。この身体はアルハが使ったほうが良い状態を保てる”
とのこと。僕にも心当たりがあるので、却下は素直に受け入れた。
諸々決まるまでの間は、町を散策するのが僕らの定番になってる。
受付さんに言付けて振り返ると、さっきからざわめいていたホールがワッと沸いた。
「
「また難易度Aを討伐したらしいぞ」
「しかも一人で!?」
心当たりのあるワードが聞こえてくる。でも、僕に向けられたものじゃない。
歓声の中心にいる人物と目が合う。
何でも有りなこの世界の髪の色でも、空色はあまり見ない。瞳も同じく、空を閉じ込めたような青だ。
キラキラした装飾のある鎧やマント、腰の剣の柄や鞘まで青い。
そう言えば別の町で、「青の
僕が一人で納得していると、青い人がこちらへ向かってきた。人垣はご丁寧に僕とその人の間に道を作る。そんな気は遣わなくて結構ですよ?
間近まで来た青い人は、僕より少し背が低い。この世界の男性は、前に居た世界で言うところの欧米人なみに平均身長が高い。そんな中、僕は二十歳を越えたというのに、どうやら背が伸びたらしい。行く先々で「でかい」と言われることが多くなった。多分、百九十センチメートルを越えたんじゃないかな。日本だったら「着れる服がない」とぼやいているところだ。
これから起こるだろう物事の前に軽く現実逃避をしていると、青い人が口を開いた。
「もしかして、貴殿が黒の
予想の斜め上から特殊攻撃が来た。何その恥ずかしい二つ名。僕は確かに髪も瞳も黒ですけど。装備はいつもお店の人に適当に見繕ってもらってるのに、何故か高確率で黒っぽくなりますけど。
「3分の2は合ってます」
目をそらしたいのを我慢しながら、ふんわり肯定する。
「この方はアルハ様で間違いないですよ!」
僕と話をしていた受付さんが後ろから余計なことを付け加えた。受付さんんん!!
青い人は爽やかな笑みを浮かべると、僕に右手を差し出した。
「お初にお目にかかる。俺はハインという。同じ
「は、はあ、どうも……」
勢いに気圧されて、右手を握ってしまう。
すると静かになっていた周りの人が、再び騒ぎ出した。
「青と黒が出会ったぞ」
「伝説がはじまるのか!?」
「やべー、すげー」
最後の人、語彙を諦めないで!
ていうか青とか黒とか、本人が承認してない二つ名で呼ぶのやめて!
「俺は青の、という二つ名で呼ばれているからな。同じ色の名で呼ばれる貴殿に興味がある」
受け入れてるんかい!!
お集まりの皆様の中に僕と同じ感性の方はいらっしゃいませんか!?
たすけて!!
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