2-40-2 執事道
「こちらこそ、宜しくお願いします」
完璧な仕草で返礼されたのは、久しぶりです。
相手が冒険者に限れば、初めてかもしれません。
大抵の人間は、私を執事と見るや、ぞんざいな態度を取るものです。
執事は、人に仕えることが役目。
されど執事も人の子です。ぞんざいな相手には、こちらの仕事もそれ相応になるというもの。
手抜きはしませんよ。ただ、できるだけ早くお帰りになりたくなるように仕向けて……いえ、これは、此処だけの話に願います。
アルハ殿の礼に、少しだけ見惚れてしまいました。
我に返り、仕事を始めます。
いつもなら湯浴みはお一人でやっていただくのですが、メイドを3名お付けしました。
悲鳴が聞こえた気がしましたが、ご満足いただけたかと思います。
その後も事あるごとに、手ずから仕事させていただきました。
執事やメイドのやることに、アルハ殿は一々礼を口にしてくださいます。
所作は完璧で、態度には欠片の嫌味もなく、顔も整っていらっしゃる。
もう少し肉付きがよければ完璧なのですが、求めすぎるのはよくないでしょう。
私が心から仕えるのは妻であるジュノ国王と、娘のオーカだけです。
しかし、そこにアルハ殿を加えたいという欲まで抱いてしまいました。
アルハ殿が血まみれで城へ戻られた時、私は後少しで卒倒するところでした。
しかし怪我はもう治っているとのこと。顔を洗うための水だけ所望されたので、すぐに手配しました。
話を聞けば、ギルドの統括めが私利私欲のため、アルハ殿を利用しようとし、断ったらこの仕打ちを受けたと。
私に、ギルドを左右する権利があってよかったと、このときほど思ったことはありません。
統括は速攻解任し、二度と冒険者やギルドに関われないよう、手を回しました。
さらにアルハ殿が厳罰を求めれば、私の権限でそれも加えよう決めました。
ところが、直接尋ねてみれば「できるだけ会わないように」というささやかな希望だけ。
ご自身に狼藉を働いた者に対して、なんと寛大な。
街を襲った魔物を討伐し、
娘が危ない所だったのを助けていただいたときは、感謝の言葉もありませんでした。
やはり、アルハ殿にも心からお仕えしたい。
オーカの方も、日に日にアルハ殿を気に入っている様子。
応援したい、と強く思いました。
リースから話を聞きました。アルハ殿には、想う人があると。
あれほどの男です、世の女性が放っておくわけがありません。アルハ殿に心酔するあまり、そのことを失念しておりました。
どうやらオーカに脈はない様子。
親の贔屓目をしなくとも、オーカは見目麗しい娘なのですが……アルハ殿の見初めた女性というのが気に懸かります。
しかし、恋路の邪魔は、執事でなくとも無粋というもの。
せめてアルハ殿には、専用の客室を快適に使っていただけるよう、日々の掃除に心を込めております。
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幕間はこれにて一旦終了です。
お付き合いありがとうございました。
第三章は10月下旬頃から公開予定です。
しばらくお待たせしてしまって申し訳有りませんが、
また宜しくお願いします。
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