2-3-2 年齢規制のない世界
お酒を飲むと僕から交代ができなくなる現象について検証しようとしたら、ヴェイグに猛反対された。
僕もお酒は積極的に飲みたいものではないので、そのままにしておくつもりだった。
“酒精の割合が少なければ良いのか”
「あのお酒を二十倍ぐらいに薄めれば、1杯ならなんとか」
“それは酒と呼べるのか”
ヴェイグはお酒が好きなようだ。僕のセーフラインを聞いて、心なしか残念そうにしていた。
僕が一口で昏倒したお酒のアルコール度数は50%と聞いてるけど、もしかしたらもっと度数が高いかもしれない。
酒場でほいほいと出されるものがそのレベルということは…。
「ヴェイグがよく飲んでたお酒は、割合どのくらい?」
“似たようなものだ”
ヴェイグの口ぶりから、多分皆お酒に強すぎて、割合とか気にしてないんだろうなって察した。
「酔う前に頭痛くなっちゃうからなぁ…」
まさか自分の体を他の人と使うことになるなんて、思いもしなかった。
この事態が分かっていたとしても、生まれつきの体質はどうしようもないけど。
“酔うのは好かん。そこまで飲みたくはない”
「前は、酔うまでにどれくらいの量を?」
“一樽では多いな、3分の2ほどか”
酒場にあった小さな樽は5リットルぐらいの量だったかな。
度数50のお酒を3~4リットルくらい飲んでやっと酔えるのか…。
「ごめん絶対無理」
“だから、酔うのは好かんのだ。酒の味を堪能できればとは思う”
「味が好きなの?」
その感覚もよくわからない。けど、それなら…。
宿を出て、露店通りへ向う。こっちにも生姜や炭酸水はあった。それと、果物屋さんで試食しながら果物をいくつかと、ジューサーを手に入れた。
宿に戻り、部屋で買ってきたものと、野営道具の中の調理器具や水飲み用の杯などを取り出した。
“何を始めるんだ?”
「ノンアルコールカクテル」
“ノン…?”
給料の良さに惹かれてバーでバイトをしたことがある。
面接で正直にお酒が飲めないことを伝えたけど、人手がなかったらしくて採用された。
バーテンさんがいい人で、ノンアルコールのドリンクを、僕に試飲と称してごちそうしてくれた。
あのお酒の味はあまり覚えてないけど、ノンアルコールカクテルと似たような味だった気がするんだ。
ジンジャージュースを炭酸水で割り、ライムに似た果物を絞って、砂糖水を少量。
“飲んでみて”
「ふむ。……おお」
“どう?”
「美味い。酒と言われると微妙だが、味は近い」
そうなんだよね。アルコールはアルコールじゃないと代用できないみたいで、僕が美味しいって飲んでても、バイト仲間の中には「違う」って言い張る人もいた。そりゃ違うものだから違うに決まってるのに。
ヴェイグはモスコミュールもどきを、ごくごくとあっという間に飲み干した。
「冷えていれば完璧だったな。氷を買ってくるか」
“ああ、氷を忘れてた”
魔法で作ればいいのに、って前に言ったら、魔法が関与した水や氷は口の中を攻撃してしまうんだとか。
似たような理由で、料理に使う火も魔法で代用できない。
魔道具のコンロや冷蔵庫は魔法とは少し違う原理でできているらしい。
氷を買うために、今度は食料品店へ向かった。
「他にも果物を買っていたな。あれはどうするのだ」
“別のも作ろうかと思って”
ヴェイグが珍しく、交代を言わずに自分で買い物しようとしている。
ノンアルを気に入ってくれたようだ。
ヴェイグがモスコミュールもどきを気に入りすぎたせいで、無限倉庫には材料が常備されることになり、僕も頼まれる度に作ることになったのは、それだけ喜んでくれてよかったということで。
酒場に売り込もうという案は、原価がお酒より高いので見送った。
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