2-2-2 武術大会あれこれ
コワディスとの場外乱闘のあと、結局試合に出続けることになった。
細工がしてあるという試合用の木剣は、交換してもらった。
木剣の支給係も共犯だったようで、違う人になっていた。
細工のない木剣は、質も強度も申し分なさそうだ。
「あちらに、試し切り用の人形を用意してあります。あんな事の後ですから不安でしょう。どうぞお試しください」
お言葉に甘えて人形の前に進む。軽く振り下ろすと、藁でできた人形の胴を斜めに斬り落とすことが出来た。
「大丈夫ですね」
支給係さんを振り返ると、口を開けて呆然としていた。
“試し切りで人形を斬り落とすやつがあるか”
ヴェイグまで呆れてる。え、だって試し切りって、そうじゃないの?
「あの、なんかすみません」
とりあえず謝っておいた。
2回戦以降の相手は全員、剣士だ。
冒険者は魔物を相手に戦う人で、剣士の主な相手は人間だ。
城や大きな屋敷に仕えて、不届き者を相手にしたり戦争へ出向いたりする。
戦争自体は、最近は起きていないので、剣士は仕事が減っていて、こういう場所へは賞金目当てで参加している。
「そういえば、賞金の話を聞いてないや」
“アルハらしい…とは言い切れんな。俺も失念していた。次の試合までまだ時間がある。聞いてきたらどうだ”
これは僕らが無欲というわけじゃなくて、チートやスキルのおかげでお金に困ってないせいだ。
聞きに行こうと通路を歩いていたら、ロビーの掲示板にも町でよく見た武術大会のチラシが貼ってあった。
それをよくよく見たら、賞金のことも書いてあった。完全に見落としてたなぁ。
「ええと、優勝で10万エル…」
“……”
難易度Dのクエストを1回達成すると、1万5千エル。
僕らはそれを、いつも1日に10回は達成している。
魔物からのドロップアイテムを売れば、さらにそれ以上稼げる。
「やっぱり棄権しようか」
“できればそうしたいな”
僕らが掲示板の前で黙り込んでいると、ロビーにいた剣士の一人が近寄ってきた。
「お前か、コワディスを倒したっていう冒険者は」
冒険者はガブリーン経由でなくても何人か参加している。
それでピンポイントに僕に話しかけてきたってことは、目印は黒髪だろう。
「はい」
剣士は僕の返事を聞くと、声を潜めた。
そこで持ちかけられたのは、新たなイカサマだった。
「俺が優勝したら、賞金は山分けすると約束するぞ。どうだ?」
「お断りします」
それだけ言って、ロビーから出ようとした。剣士が追いかけてくるが、何を言われても無視した。
「そのつもりなら、覚えておけよ!」
優勝にも賞金にも興味はなかった。
ただ、棄権する理由はなくなった。
2回戦の相手は、そのイカサマ剣士だった。
開始とともに相手の動きを待たずに、剣を喉元へ突きつけて決着した。
その次も、決勝も、同じ手で勝った。
「優勝は、冒険者、アルハ!」
こんなに嬉しくない歓声も無いなぁ。
受け取りを拒否できなかった賞金を有効に使えたのは、だいぶ後になってからだった。
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