2-9-2 夜食食らわば皿まで

「魔法で出せばいいのに」

「手料理が食べたいのー。作る過程も見たいのー」

「簡単なのしか作れないよ」

“俺がやろうか”

「いえ、僕がやりますので!」


 危ない。ヴェイグに料理をさせてはいけない。

 見た目も味も大変だったのに、お腹を壊さなかったのが奇跡という代物が出来上がる。


“……そうか。練習したいのだがな”

「家に帰ったら練習しようか」

 まずはトーストにバターを塗るところから、かな。



 寝る前に、カリンのリクエストで、夜食を作ることになった。

 できれば和食で、というオーダーだ。

 食材はカリンに言えば何でも出てきた。カリンの魔法、便利だなぁ。


 真夜中だし、軽めのものがいいよね。

 ご飯を炊いた状態で出してもらい、醤油、味醂、だしの素を混ぜる。

 握ってフライパンで焼いて、焼きおにぎり。

 更にだし汁を温めて、お椀に入れた焼きおにぎりに揉み海苔と白ごまを振ってから注ぐ。

 飲み屋のバイトの賄いでよく食べてた、焼きおにぎり茶漬けだ。

「薬味どうする?」

「梅干し!」

“美味そうだな。俺も食べたい”

 ヴェイグは僕が何か作ると、食べたがってくれる。嬉しい。

「わかった。薬味は何がいい?」

“アルハの好みは何だ?”

「明太子かな。魚の卵なんだけど」

“それで頼む”



「アルハ、嫁に来て」

 焼きおにぎり茶漬けを3杯ぺろりと平らげたカリンが、マジトーンで何か言い出した。

「やらんぞ」

 ヴェイグさん?

「そこをなんとか! お義父とうさん!」

「貴様に義父ちちと呼ばれる筋合いはない」

 何でノリノリなの?

 ていうかヴェイグも同じく3杯ぺろりといきましたね? 夜食だよ?


 僕とヴェイグは一つの身体を使ってるから、表に出てるほうが食事を取れば中にいる方はお腹が空かない。

 それをいいことに、ヴェイグは食事を殆ど僕に任せっぱなしで、自分から食べることは少ない。

 元々食事にあまり興味のない人のようだけど、精神衛生的にいいのか不安だったんだ。


“ヴェイグがこれだけ食べてくれるなら、たまに作ろうか”

 カリンの魔法無しで、どこまで材料が手に入るかわからない。

 この世界の食材で工夫して作るのも楽しそうだ。


「やはりまだ嫁に出したくないな」

“それまだやってたの!?”




“だいぶ近いな。さっきのを少しだけ混ぜてみてくれるか”

 森の魔物を討伐した後、宿屋で色んな食材から取った出汁をヴェイグに味見してもらっている。

 ヴェイグの舌は、さすが王族って感じでとても繊細だ。

 一度しか食べていないはずの、焼きおにぎり茶漬けの味を完璧に覚えていた。

「あ、これかなり近い…かな?」

 僕はと言うと、あれこれ味見したせいで、何が正解かわからなくなりつつある。

 もうどれもわりと美味しいんだけど…。

“まあ、こんなところか”

 ヴェイグの合格ラインに達したようだ。長かった…。夕食食べてないのにお腹いっぱいだよ。

「こんなに味がわかるのに、どうして料理は苦手なの?」

“味だけ分かってもな。どの食材にどの味が合うのか、そのあたりが難しい”

「そんなもんなのかな…」

 解せない。


“では次は、メンタイコを探すぞ”

「もう明日にしようよ」

 味の探求は始まったばかりだ。


 その後、すぐに旅の目的を思い出したおかげで、明太子探しの旅には、まだ出ていない。

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