3 飲むなら酔うな 酔うなら飲むな
◆◆◆
アルハが酔いつぶれてしまった。
成り行きで出場した武術大会に余裕で優勝した後、ギルドの連中が祝賀会を開いた。
アルハは参加も酒も固辞したのだが、一杯だけと渡された酒を一口飲んだだけで昏倒してしまった。
その後は俺が身体を動かし、気分が悪くなったと言って宿屋へ戻った。
本当に気分が悪い。
酒精を分解しにくい体質であると言ってはいたが、これほどとは。
解毒魔法の要領で身体を癒やすと、吐き気は薄れたが、頭痛は残った。
装備を解いて寝床へ横になろうとした時、アルハが覚醒した。
“ん……うう……、頭痛い”
「身体は俺が使っているのだが」
“うえ、じゃあこれ何の痛みだ……”
「交代してみてはどうだ」
“あー……うん……。……あれ?”
「どうした?」
いつもの交代の感覚がなかなか来ない。
“交代できない……”
◆◆◆
「やはり、もう一度酒を飲んでみないか」
“もう少し様子見たい”
「……今、由々しき事態だという自覚はあるか?」
“え、なんで?”
お酒を飲んでしまって、気がついたら宿屋にいた。弱いとはいえチューハイ1缶くらいまでなら飲んでもなんともないのに……こっちの世界のお酒どんだけ強いんだよ。
そして、ヴェイグに身体を渡したまま、交代できなくなった。
ヴェイグから交代を試みてみたり、寝て起きてみたり、完全に酔いが覚めるまで待ってみたりしたけど駄目だった。
あとは昨晩のお酒を飲んでみる、くらいなんだけど……。
「このままではアルハが身体を使えないではないか。俺から交代は出来んのだぞ」
“
「この状況の再現なら、普段でも頼めばやってくれるだろう?」
“そうだけど。ヴェイグから要望しないじゃん”
「須要でないから言わぬだけだ」
何故かヴェイグの方が現状に焦ってる。僕としては、せっかくの機会だからヴェイグに身体のある生活を堪能してもらいたいし、こうなった原因と治し方を突き詰めたい。
“あのお酒を持ち歩けばいつでもこうなれるのかな”
「きっとそうだ。酒場へ行くぞ」
“えー”
「俺としたことが思考が鈍っていた。アルハに身体を取られる心配はないのだから、さっさと手に入れて飲めばよかったのだ」
ヴェイグは僕から交代されるのに慣れすぎてて、自分が何でもできることに気づいてなかった。
宿屋を出て、昨夜の酒場へ真っ直ぐ向かう。
無事、昨夜飲んだのと同じお酒を入手して、宿屋へ戻った。
念の為、装備は外して、ベッドに腰掛ける。
「では飲むぞ」
そう言うが早いか、あっと言う間にぐいっと飲んでしまった。しばらくして、ヴェイグが頭を押さえる。
元のヴェイグ自身はお酒に強かったようだけど、今の身体は僕のだ。つまりアルコール耐性の無さも僕レベルということだ。
“大丈夫?”
「むぅ……本当に酒精に弱い身体だな」
“そのお酒のアルコール度数……えっと、酒精の割合って分かる?”
「5割ほどだろう」
“そりゃ倒れるよ……”
「何処かの国の伝承に、竜を酒で酔わせてから倒す話があったな」
“僕がいた国にもそういうのあった。って、何で今その話?”
「アルハの倒し方が見つかったということだ」
“竜と一緒にしないでよ”
「それより、どうだ?」
「あー。もとに戻った……うわ、気持ち悪……」
交代できた。ヴェイグとの交代も、ちゃんと出来る。
元通りだけど、吐き気と頭痛が酷い。
“解毒魔法を使おう。気休め程度だがな”
「お願いします」
“落ち着く”
ヴェイグは内に引っ込んでしばらくすると、安堵のため息とともにそう呟いた。
「それもどうなんだろう……」
前にも言ったけど、ヴェイグはこの状態に馴染みすぎている。
僕も最近は、身体一つを二人で使うことに関して何の疑問も持たなくなってきていて、むしろ「一人が一つの身体って忙しくない?」などと考える始末だから、お互い様ではある。
昼を少し回った頃、ギルドハウスへ向かった。
「アルハ! 昨夜はすまなかったな。もういいのか?」
中へ入ると、ガブレーンに早速声をかけられた。
「ご心配おかけしてすみません。もう平気です」
昨夜の祝賀会にはギルドの人や冒険者がたくさん来ていた。その人達にも口々に体調を気遣われて、ちょっと面映い。
ここへ来たのは、もう大丈夫ですってのを見せるためと、武術大会の一件についての説明を聞くためだ。
ギルドの奥の会議室で話を聞いた。
武術大会での賭け事は特に禁止はされていない。それを良いことに規模が拡大し、かなりの金額が動くようになった。
一番幅を利かせている元締めが、参加者に金銭を渡して賭けの操作をしているという噂が立ち、ことを調べるべくギルドが冒険者を送り込む。
ところが、手練の冒険者が相次いで初戦敗退。主な敗因は武器の著しい破損。
急遽参加した僕が剣を折らずに優勝したことで、色々と明るみにでたという流れだ。
「この件は城とギルドで収拾をつける。アルハに出てもらって助かった。優勝までするとは思わなかったがな」
ガブレーンは上機嫌だ。
以前言っていた『沽券に関わる』というのは、『試合で勝利できない』という点だったようだ。
武器の破損とはいえ、負けは負け。魔物を討伐することで生活している冒険者が、それでいいのか、となっていたらしい。
これも武器に細工がしてあったことを発表すれば、汚名返上だろう。
「お役に立ててよかったです」
話は全て聞いたと思いきや、ガブレーンに「まだ話がある」と止められた。
「アルハの戦いぶりを聞いた国王が、アルハに会いたいと言っているのだ」
そういうガブレーンの顔は、先程までとは一転して渋いものだった。
「会うだけなら問題ないですが」
王様なら普段から謁見どころか運命共同体してる。今更臆したりしない、と思う。
「普段、武術大会で優勝したくらいで冒険者に会うことはしない」
ガブレーンは膝の上で腕を組み、僕に上半身を傾けるように顔を寄せた。
「王は好奇心旺盛な方でな。大会での賭け事の件は大体把握されている。それを止めたアルハに興味を持ったのだろう。あの方に会うということは、これから仕えよ、ということなのだ」
「えっ、嫌です」
“ふっ”
ものすごくストレートな言葉が口から出た。ヴェイグはそれを聞いて吹き出した。
王に仕えるってことは、城に束縛されるってことだ。
やるべきことがあるのに、一箇所に留まるなんてできない。
ガブレーンは座り直すと、僕に申し訳無さそうな顔を向けてきた。
「訳ありの旅をしているようだから、そう言うとは思っていた。ただ、王命は絶対でな……。仕えるにしても1年ほどで王が飽きる。それまで辛抱してくれないか。私やギルドに出来ることなら、全面的に協力する」
ありがたいことを言ってくれるけど、僕らの目的は他の人に任せられない。
「とりあえず、会ってきます。そこでなんとか断ります。ギルドに迷惑はかけません」
「こちらのことは気にしなくていい。良い方向へいくよう、祈っておく」
翌日、ギルドの入り口前に馬車が停まっていた。僕を迎えに来たという。
“呼びつけるというのに馬車は寄越すのか”
「変なことなの?」
“いや、礼儀として正しい。ただ、冒険者を問答無用で召し抱えようとする者が
まだ会ったことのない王様だけど、ここまでの印象はちぐはぐで、不安しか無い。
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