33 ぼくはおうぞくだぞえらいんだぞ
偉そうにでてきたイーシオンは、いきなり僕に殴りかかってきた。
「え、素手?」
スキルはどこに何を使ってるんだろう。
顔に向かって放たれた拳を難なく掴み、そのまま腕を捻り上げて組み伏せた。
「突然なにするんだよ」
一応、抗議してみる。しかし、ジタバタともがいているのを見る感じ、すぐには応えてくれなさそうだ。
「イーシオン様が、あっさり……」
「何者だ……」
「お前たち! この不届き者をなんとかしろ!」
ざわつく兵士たちに、イーシオンが怒声を上げる。この状態でも威厳は保ちたいらしい。
曲者に取り押さえられて動くのもままならないという威厳の欠片もない状態なのは、いいのかな。
兵士たちはイーシオンの声に反応し、一斉に僕に向かってきた。
攻撃が届く前に、周囲に盾を創り出して武器を止める。全員怯んだ隙に、イーシオンを立たせて船首の先へ移動した。
「な、なにをする、無礼者が!」
「どっちが」
「僕は、お、王族だぞ!」
「だから何」
王様ならこっちにもいるし。
“だから嫌なんだ王族は……”
うちの王様、頭抱えて凹んじゃってるよ。
「イーシオン様を放せ!」
「何をしているか分かってるのか!」
兵士たちが口撃してくる。どうしたら対話をしてもらえるんだろう。
「君ら、何しに来たの?」
「王族たる僕に向かってそんな口の利き方を……」
「いい加減にしないと怒るよ」
少し苛々してきたので、[威圧]を軽く発動させた。本当に、ちょっと怯んでくれたらいいなーって程度で。
「勝手に町の上にこんなデカイの浮かべて、まともに話もせずに殴りかかってくる人の方が、無礼な不届き者じゃない?」
捻り上げた腕をギリギリと締め上げながら、
後で思えば、推定年下にこれはやりすぎだった。本当に反省している。
けどね、イーシオンもね、自称王族が、こんなことでね。
「う、うええええええん!! うわああああああん!!」
めっちゃ泣くことないじゃん。
拘束と[威圧]を解いても、イーシオンは突っ伏して泣くばかりになってしまった。
兵士たちはというと、イーシオンを助けようともせずオロオロしている。
「君たちの王なんじゃないの?」
声をかけると、数人がハッとなって、近づいてきた。兵士が二人がかりでイーシオンを助け起こして、船室へ向かっていった。
イーシオンたちと入れ替わりるように、船室から人が出てきた。音楽室で見たバッハの肖像みたいな髪型をした、年配の男性だ。白髪に、イーシオンと同じ薄い紫色の瞳をしている。
男性は兵士に何事か耳打ちされて、僕を見ると、すっと近づいてきた。
「イーシオンが手も足も出なかったというのは、貴方のことですか」
言い方……。事実だけど。
「はい。……すみません、やりすぎたようで」
「いいのです。あの子にもいい薬になったでしょう。それより、下にある町から来られたと?」
「ええ、町に住んでいる者です。この船がどういう理由でここにあるのか、聞きたくて」
「そうでしょうね。お話しますので、こちらへ」
船の中とは思えないほど豪華な内装の室内に招き入れられた。
家のリビングのテーブルより大きな丸テーブルの前の椅子を勧められて、素直に座る。
すぐに先程の男性が僕の向かいに座った。タルダと名乗り、僕の名前を聞いてから、頭を下げた。
「まずは、お詫びを。突然このような事態になってしまい、申し訳ない」
「あの、僕は個人的にここへ来ただけなので。謝罪は町の人にお願いします」
でも、こっちの町の代表って誰になるんだろう。町長みたいな人がいるっていう話は聞かないし。警備兵を差配している冒険者ギルドの統括さんあたりだろうか。
「それは勿論。ですが、聞けばイーシオンは問答無用で貴方に攻撃したと。そのことをお詫びしたい」
「怪我はしてませんし、僕もやりかえしすぎましたから。そのことはもういいです」
「ありがとうございます。しかし、あの子の攻撃が当たらない人間など初めてで……」
「スキルがどうとか言ってましたね。詳しく聞いてもいいですか?」
それで聞けた情報は、ヴェイグたちから聞いていたものとほぼ同じだった。
ディセルブの王族に魔法は使えないこと。数百年に一人、スキルの使い手が生まれること。あとはスキルについての説明をしてくれようとしたけど、知っていると答えたら、驚かれたけど割愛してくれた。
そして新しく分かったことは、ヴェイグが死んでいた50年の間に、7人のスキル使いが誕生していたこと。
「7人もいるんですか」
あんなのが、と言いかけて止めることができた。危ない。
「ええ、それぞれ違うスキルを持っていて……正直に言いますと、手に負えないのです」
タルダさんは大きなため息をついた。
“アルハ。俺とオイデアの名前を出してくれ”
「いいの?」
“ああ。タルダなら大丈夫だろう”
「タルダさん。えっと、ヴェイグとオイデアをご存知ですか?」
俯いていたタルダさんは、名前を聞くや立ち上がり、テーブルから身を乗り出して僕に顔を近づけた。
「なぜその名を!?」
「えーっと、なんて言ったらいいか……。ともかく、2人を知ってるんです」
「なんと……こんな遠方の地に……」
「タルダさんは、2人とはどういう関係ですか?」
「ヴェイグは兄上です。50年前に亡くなって……オイデアという呪術者とともに蘇るはずが、未だに姿をみせてくれません」
弟さんだったのか。ヴェイグ兄弟いたのか。
“そういうことだ。ディセルブでは、タルダだけが理解者だった。変わっていないようだ”
「話す?」
“そうだな、交代してくれるか。俺から説明する。ただその後、面倒に巻き込まれることになるやもしれんが”
「何を今更」
“すまんな”
ヴェイグに交代すると、ヴェイグは暫く目を閉じてじっとしていた。
タルダさんが怪訝な顔でこちらを見つめている。やがてヴェイグが目を開けて話しだした。
「久しいな、タルダ」
「え……?」
「分からぬだろうし信じられぬだろうが、俺は今、このアルハの身体を間借りしている」
姿は勿論、声も僕のだ。マリノはどういうわけか僕とヴェイグをすぐ見分けるけど、同じくらい一緒にいるメルノは暫く観察しないとどちらか分からないと言っていた。
初対面の僕の姿から、ヴェイグの口調が出ても気づかないんじゃ……。
「兄上!」
杞憂だった。
ヴェイグから、僕らの状況や転生で得た能力などの話を一通り説明した。
「それで、アルハ殿はイーシオンを一蹴できたわけですか」
「イーシオンは何のスキルを持っている?」
「身体能力強化と筋力補正、敏捷補正の3つと聞いています」
ん? 身体能力強化?
「兄上、アルハ殿。お願いがございます」
タルダさんは椅子にきっちり座り直すと、僕らにまた頭を下げた。
「ディセルブを、救っていただきたい」
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