30 ロングの方

 僕らが家に帰ってきた日、メルノ達はクエストをこなして帰ってきたところだった。

 そんなわけで翌日の今日は休養日。

 身体はどこも疲れてないけど、僕らもクエストへ行くのはやめておいた。

 元々の目的のために、ギルドハウスに用事はある。


「本当にいいのか? この額を」

「はい」

 ティターンのドロップの換金して全額、って話だったし。それが予想を超えた額になったのは確かだけど、男に二言はない。


 トイサーチ冒険者ギルドの偉い人ことデュイネは短い白髪の頭を深々と下げた。

「感謝する」

 本気だと分かってもらえたようだ。それにしても、こう何度も頭を下げられるのは慣れない。

「僕の我儘を聞いてもらうためなので」

 メルノ達のために、町の治安を良くしてほしい。町全体の問題に、いち個人が口を出す。これを我儘と言わずに何というのか。



 話を終えてギルドハウスを出る。まだ日は高い。

 休養日のメルノ達は、クエストに行っている間に溜まった家事や雑事をこなすのに奔走する。僕も勿論手伝う。今回分は、今朝のうちに終わらせることができた。

 二人は今、家でお茶を飲みながら装備の手入れをしている頃だろう。

 僕の方も、この後特に予定はない。つまり、今日は時間に余裕がある。

 ステータスの確認や、できたらメルノ達に手伝ってもらって[自空間]の検証をしよう。


 帰宅して自室に入り、早速ステータスを表示させる。



 +―

 | 日暮川 有葉

  レベル:55

  生命力:201240/201240

  魔 力:201260/201260

  筋力:200144

  敏捷:200138

  運 :200140

  属性:なし

  魔法:レベル1

  スキル:全 [解放済:生命力補正 魔力補正 筋力補正 敏捷補正 運補正 体術の極み 武術の極み 必中 気配察知 弱点看破 鋼の精神 千里眼 順風耳 隠蔽 潜伏 ドロップ確率超上昇 干渉阻害 武器生成 暗視 属性付与 治癒力上昇 精密制御 限界突破 自空間 威圧 防具生成 嗅覚 異界の扉]



「また派手に増えてる……。こんなに必要?」

 自分のステータスに突っ込みつつ、ヴェイグのも聞いた。


 +―

 | ヴェイグ・ディフ・ディセルブ

  レベル:45

  生命力:20328/20328

  魔 力:20224/20224

  筋力:20200

  敏捷:20280

  運 :4080

  属性:全

  魔法:全 [解放済:火炎 熱気 治療 能力上昇 水流 武具生成 人形生成 大地 転移 結界 状態異常 疾風 消滅 状態異常回復]



“ははは……”

 お互いのステータスを教え合って、ヴェイグが乾いた笑いをあげた。笑うしかないよね、これ。


 気を取り直して、スキルを詳しく見ていく。

「防具生成って、これのことかな」

 指先で赤いバレッタを創る。最初に創ったものはまだ消えずにポケットに入ったままだ。2つめは、消えないかな、と念じていたら消えてくれた。

 武器と違って防具はかなり長い間保つらしい。

 いま前髪をまとめているのは3つ目だ。


 前髪、というかこっちの世界に来る前からだいぶ伸びていた髪を切ろうとしたらヴェイグに止められた。

 なんでも、魔力は頭髪に宿る、っていう話が信望されていて、魔法使いは切らないのが普通なのだとか。

 僕は周囲には魔法を使っていることになっているので、これ以上短いと妙に思われてしまう、とのこと。

 ぶっちゃけ迷信なので、ヴェイグはセミロング程度でお茶を濁していたようだ。


「防具ってことはさ、鎧とか兜とか、だよね」

“そうだな。俺はその手の装備は身に着けたことはないが”

「篭手とか脛当てなら、そんなに邪魔にならないよね?」

“ふむ。何を考えている?”

「やってみる」


 右腕を前に伸ばして、手首から肘までを魔力で覆う。以前、街の防具屋さんで見た篭手を思い出しながらイメージすると、赤くシンプルな篭手が出来上がった。内側はベルトで留めるのをイメージしてたのに、全体に金属がピッタリくっついてる状態のものになってしまった。篭手というより、筒に腕を突っ込んでいる状態が近い。


「思ってたのと違う」

“腕を完全に守れているではないか。動きはどうだ?”

「……動かしやすい」

 動きが全く阻害されなかった。それに、元々僕がやろうとしていたのは、防具に付加効果を付けることだ。

 風属性を付けたら、動きが早くならないかなー……とか。

 そのせいか、重さを全く感じない。動かす速度も心なしか早い。


“試してみて”

「ふむ。……これなら、邪魔にならぬな。それどころか、腕が軽い。何をした?」

 風属性の説明をした。

「色々なことを思いつくな、アルハは」

“ただなー。見た目がな―”

 ポテトチップスの空き容器に腕を突っ込んで遊んでいた幼少期を思い出す。2つあれば無敵なのに、一度に1つしか無かったんだよなぁ。……何を言っているんだ僕は。

「気にする部分はそこなのか……」

“防具屋さん行って、もっとよく見てから創ることにする”

「アルハがそうしたいのなら」



「じゃあこれは一旦置いといて」

 筒……もとい、篭手は消した。


「異界の扉って、覚えがないんだけど……」

“扉といえば、オイデアを閉じ込めた時に創っていた[自空間]の扉だな”

「異界ってのが気になる。あの先、[自空間]じゃなかったのかな」


 オイデアは放り込んだけど、僕自身は扉の先へ行っていない。そもそも、異界なんて意識してなかった。

“人が入れる場所は[自空間]とは別、ということではないか?”

「そしたら、オイデアと話をしたあの空間も異界だったことになる。……実際行ってみるのが早いか」


 視線の先に黒い扉を出現させる。開閉も僕の意思だけで操作できた。

 まずは開けて、中の様子を探り見る。

“何も見えぬな”

「よくわからないね。よし、入ろう」


 分からなければ、行動。ということで、扉の中に足を踏み入れた。


“……っ、う”

「どうしたの!?」

 ヴェイグが急に苦しそうな声を上げた。

“すまん、目眩が……。上下の感覚が失せたようだ。アルハは平気か”

「うん。一旦出よう」


 部屋に戻って、扉も消しておいた。

 怪我をしても声すら上げなかったヴェイグが、こんな風になるなんて異常だ。

「ごめん、もっと注意するべきだった」

“何に注意を払えば良いのかも分からなかっただろう。もう大丈夫だ、心配するな”

 声はいつもの、しっかりした威厳のあるものになっている。けど、まだ具合は悪そうだ。


「あんなとこにオイデアさんを放り込んじゃってたのか……」

“オイデアに直接聞いてみてはどうだ”

「ついこの前、解放したばっかりだけど」

“いつでも呼べと言っていた”

「そうだけども」


 僕は若干の気まずさを感じているのに、ヴェイグは気にしていないようだ。

 他にいい考えも思いつかないから、オイデアに貰った通信石を取り出した。

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