16 報酬と前日
「アルハ、でいいんだな?」
呼ばれて振り返ると、茶髪の剣士さんが大きな革袋を持って立っていた。
「はい」
「ティターンのドロップ、集めておいた。全部あると思う……っていうか、他のやつが黙って持ち帰ったところで、どこに出しても速攻バレるような代物ばかりだ」
「そうなんですか」
それを何故僕のところへ持ってくるんだろう。よく分からずにいると、剣士さんが眉を寄せて怪訝な顔をした。
「ほら」
そして革袋をこちらへ押し付けてきた。
「え? ああ、換金してこいってことですか? モノだと山分けしにくいですもんね」
「山分け? 誰と?」
「皆さんで」
ここにいる冒険者は全員で戦ったから、即席だけどパーティってことになる。あ、でも最初の6人はカウント外にしたいな。何もしてないどころかフレンドリーファイアしてきたわけだし。
「何を言っているんだ。倒したのはお前さん1人だろう」
「皆で戦ったじゃないですか」
止めを任せたりもしたし。
「本気で言ってるのか」
「はい」
僕が真面目な顔で頷くと、剣士さんは「おいおい……」とつぶやいて困った顔になった。
すると、剣士さんの後ろに居た他のみなさんが、口々に言ってきた。
「どちらかというと、俺らは足を引っ張っただけというか」
「アルハが貸してくれた剣でしか傷つけることもできなかったんだ」
「私達は、ドロップは全てアルハのものだと、納得してますよ」
「素敵……」
さらに、さっき攻撃を受けて悲鳴を上げていた人が仲間の肩を借りながら前へ進み出た。怪我は魔力を渡したヴェイグが治してくれたものの、足元はまだ覚束無いようだ。
「貴方は命の恩人だ。もし自分に分け前があったとしても、貴方に全て差し上げるのが筋だ」
「んな大げさな」
人数の圧に負けて、結局受け取ってしまった革袋を見る。袋から何かの柄がはみ出てるし、袋自体もかなり大きい。石っぽいものも複数入っているようで結構重い。
これを独り占めって、なんだかなぁ……。
そうだ。
あることを思いついたので、アイテムは受け取っておくことにした。
「分かりました。受け取ります。ありがとう」
そう言って一礼すると、茶髪の剣士さんがホッとした顔になった。
ギルドへ諸々の報告をして、色んな人に色々と聞かれて、ギルドを出たら夕方だった。
メルノ達は先に帰したので、今は僕とヴェイグの2人きりだ。
家へ向かって歩いていたら、ヴェイグが話しかけてきた。
“消えるはずだったのはアルハの方とは、どういうことだ”
ずっと黙ってると思ったら、それを考えてたのか。
僕は身体の中で眠っている間に視たことを、ヴェイグに話した。遠い親戚のくだりは必要ないから言わなかったけど。
「こうなる前のこと、覚えてる?」
“いや……話を聞いても全く身に覚えがない。だが、いくつか分かることはある”
「何?」
“他人の身体から本人の魂を追い出してまで自分のものにするなど、俺は受け入れられん。アルハが消えるべき、などということは、絶対に、ない”
僕が視た光景のときと同じ様に、ヴェイグはきっぱりと言い切った。
“乗り越えるとは、この状況を指しての宣言だろう。俺はこうなることを受け入れていたのだ。記憶は無いが、自分のことだ、そうに決まっている。そして、気持ちは今も変わらん。むしろ、身体の
僕らはお互いに、相手の表情は見れない。けど、ヴェイグは今確かに、満足そうな顔をしている。
家に帰ると、メルノが夕食を用意してくれていた。それを皆で食べながら、僕たちのことを話した。
「ベー
「ベー兄って、ヴェイグのこと?」
「うん!」
「元気だよ」
僕が笑いを噛み殺しながら答えれば、中のヴェイグは憮然とした顔をしている気がした。
「っていうか、信じてくれるの?」
「はい。前から時折……特に魔法を使われているときのアルハさんは、どこか違うと思ってました。それに、ティターンを倒したあの力のことも、お話を聞いて納得しました。」
「……変なやつだなとか、気持ち悪いとかは?」
「そんな、考えたこともないです!」
メルノはぶんぶんと首を横に振って否定してくれた。
「マリノは?」
「お兄ちゃん2人いるの、嬉しい!」
「……ありがとう」
マリノの頭をワシャワシャと撫でた。
「換金できない?」
「はい。こちらでは……というか、この町では不可能かと」
翌日、馴染みのある道具屋さんへ行った。ティターンの封石を換金するためだ。
ところが、断られてしまった。
ティターンの封石は深緑色で、直径10センチくらいある。今まで見た封石の中でもダントツで大きい。
「どうして?」
「まず、こちらに買い取れるだけの資金がありません」
ちなみに安くても1つ2千万エルで売れる代物らしい。10個で2億エル。一応、使うあては考えてあるけど、この金額は想定外だ。
「加工して売ろうにも、このレベルの封石を加工できるほどの技術を持った者は、この辺りにはおりません」
封石は魔道具の材料だ。魔道具ってのはご家庭に一つはあるガスコンロ的なものからギルドに登録した時に使った水晶や、町や国との通信手段のための通信石なるものまである。通信石は、元の封石のサイズで通信可能距離が変わるらしい。
それはそれとして。
「うーん……どうしよう……」
僕が腕組みして困っていたら、道具屋さんが売れる場所を教えてくれた。
「この町から馬で3日ほどの距離にある大きな町なら、買取してくれるお店があるかもしれません。そこが無理でも、さらに3日かければ城下町がありますから、そこなら間違いなく」
道具屋さんにお礼を言って店を出た。
馬で3日って、僕ならどれくらい掛かるかな。
“行くのか?”
「そのつもりだよ。今すぐってわけにはいかないけど」
次にギルドへ行った。昨日相談した結果、僕の考えを通してくれてある。
「一旦この町を出ようと思ってます。そこで、頼みたいことがあるんですが」
ギルドの受付さんだけじゃなく、偉い人まで出てきて僕の話を聞いてくれた。頼みは聞いてくれることになったので、お礼を渡そうとしたら断られた。
「君からは受け取れない。だが、任せておきなさい」
「でも、これは個人的な頼みですし」
「君個人への敬意と感謝だよ」
昨日から、町を魔物の群れから守った英雄みたいな扱いを受けている。僕としては、メルノ達の家と、お世話になった人たちがいる町が被害にあったら嫌だから、っていう利己的な理由で動いただけなのに。ヴェイグも“こういう扱いには慣れぬな”って眉間にシワ寄せてた。
「その……では、お願いします」
この町の人はみんな、受けた恩を倍返ししないと済まない
家に帰ると、メルノだけがいた。マリノは森へ薬草摘みに行っているとか。
メルノが、出会って間もない頃に出してくれた薬草茶を淹れてくれた。
一口飲んでから、話を切り出した。
「明日、この町を出るよ」
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