15 VSティターン

 一番近くの1体に向けて刀身の群れを飛ばした。


 首を狙ったのに、頭ごと吹き飛んでしまった。散弾銃でも撃ったみたいだ。周囲に体液や肉片が散らばる。近くに居た人ごめん。


「え、どうなって……」

 誰かが上を見上げてぽかんとしている。頭が吹き飛んだやつは直立したまま切断面から血を吹いてるから、口開けて上見てると色々入っちゃうと思うんですが。


 日本刀は今の一撃で全て消滅してしまった。残り9体、全部同じ方法でやってもいいけど、魔力はギリギリになる。

 なので今度は多めに魔力を注ぎ込んだ1振りに、いろんな属性を付けた。睡眠、麻痺、毒、石化、恐怖……どれか一つでいいから効いて欲しい。

 別の一体に近づき、属性付きの刀で脛から下を切り落とした。

 ズズン、と地響きを立てて倒れたそいつは、全身が痙攣して起き上がれない様子だ。石化はしてない……結局どれが効いたんだ?


「すごい……一撃で……」

「止めを頼む!」

 僕が動き出してから何故か呆然としてる他の人を叱咤して、次へ向かおうとした。

“アルハ、普通の剣で簡単に斬れる相手ではないのだ”

「そうなの!? じゃあ、これっ!」

 近くに居た戦士風の人に、新たに出現させた抜き身の刀を投げ渡した。

「お、おう!」

 刀を受け取った人は一瞬ビクっとしてたけど、すぐに倒れたティターンの首元へ向かった。

「やったぞ!」

 すぐに歓声が上がる。どうやら無事止めを刺してくれたようだ。


“即死属性は付けられないのか”

「それ有りなのかな!? いや、そもそもチートだもんね。やってみる」

 今持っている刀に、即死を付与する。それで斬りつけようとしたら上からティタ―ンの足が降ってきた。


「あっぶなっ」

 遅いけど、重さのせいで破壊力のある踏みつけを、片手で受け止めた。両足が地面にめり込んだけど、身体は平気だ。そのまま刀を突き刺す。ティターンは倒れたけど、即死はしなかった。駄目か。

 ……って、受け止められたからよかったけど、僕こんなに怪力だったっけ? 


“何だ今の”


 ヴェイグまで呆れてる。

 そういえば、さっきステータス見たとき、おかしな数字になってたなぁ。

「筋力が10万超えてたんだけど関係あるかな?」

“それしかないだろう”

「具体的にどういうことなの? 筋力が10万って言われても、基準が解らないよ」

“ステータスの数値については、多ければ強い、としか解っていなくてな。冒険者ならば300もあれば熟練者エキスパートクラス、とされている”

「前に千超えたら伝説級とか言ってたよね。じゃあ僕やヴェイグは何なの」



“チート?”

「そっかあ!」

 もう無理矢理納得するしかない。


「消えたぞ!」

 また誰かが歓声を上げた。最初に倒したティターンが消滅したようだ。


「よかった。また消えずに集まって合体とか勘弁してほしかったからね」

“ティターンの集合体が出来上がったところで、アルハが負ける想像はできんがな”

「買いかぶり過ぎ」


 謙遜したものの、ティターンには本当に負ける気がしない。

 問題は、相手が大きくて複数いることと、この場で有効な攻撃を当てられるのが、どうやら僕しかいないということだ。

 足を属性付きの刀で狙って動きを封じて、転ばせる。急所が届くようになったら止めを刺す。

 創った刀を飛ばす方法は、数がないと大したダメージにならなかった。僕が直接斬りつけるのが一番手っ取り早いのは分かってる。ただ、登るにしろ飛ぶにしろ、その間は隙だらけになってしまう。


 なんとか4体目を倒した時、離れた場所から悲鳴が上がった。誰かが攻撃をまともに食らって動けないようだ。

 すぐに向かおうとしたが、目の前に別のティターンが立ちはだかった。

「このっ……!」

 踏みつけを躱し、膝を狙って刀を振るう。目測を誤ったのか、刃は空を切った。

 が、一瞬遅れて血飛沫が上がり、ティターンは苦痛の声を上げてその場に倒れた。


「!?」

 何が起きた? 

“斬撃か。アビスイーターの時もそれをやったのか”

「何それ」

“意図したのではないのか?”

 目測を誤ったんじゃなくて、無意識に斬撃を飛ばすってのをやったのかな。あと、あの時のことは忘れてほしい。僕にとっては黒歴史なんだ。


 悲鳴の上がった方向では、冒険者が集まって怪我人を庇いつつ、ティタ―ンを牽制している。

 試しに、とそのティターンを狙って、刀を下からすくうように思い切り振り上げた。


 刀の軌道が質量を持って、地を這いながらティターンへ到達し、振り下ろしていた腕を斬り落とした。

「な、なんだ!?」

 冒険者たちが驚いているけど、僕も驚いてる。


「斬撃って飛ぶんだ。これ、いいな」

 腕を落としたティターンへ、更に斬撃を飛ばす。今度は上から振り抜いた。斬撃は上手く狙い通り、ティタ―ンの胸元へ飛び、胴を切り裂いた。


 残り4体。

 ティターンは森から頭が出ているので位置がわかりやすい。

 念の為に刀を創り直し、一度、息を吐く。


 刀を真横に、4度振った。

鎌鼬かまいたちのような斬撃が4つ出現し、瞬時にティターンへ到達する。


 そして、ティターンの首が4つ、胴を離れた。




「すげえ……」

 ティターンの死体がちゃんと消えるか確認している間、誰かのつぶやきが聞こえた。


「あれが例の黒髪の」

「今の一体どういう魔法なんだ?」

「素敵……」


 どうして遠巻きにされてるのかな。


“アルハ、怪我は大丈夫か”

「平気」

 いつの間にか肋の痛みも消えてる。多分治ってる。スキルで治癒力上がってるからって、骨折までちゃんと治るの我ながら凄いな。

“油断して、アルハの体を傷つけてしまった。すまない”

「魔物と戦ったんだから怪我ぐらいするでしょ。そんなに気にしないでよ」

 ヴェイグがしょんぼりしてしまっている。痛かったのはヴェイグなのに。


「ヴェイグはさ、もっと僕に遠慮しないで交代要求して、身体使っていいんだよ。……元々、消えるはずだったのは僕の方なんだし」

“なんだと?”


「アルハさん! ご無事ですか?」

 メルノたちが駆け寄ってきた。メルノはなんだか顔色が悪い。魔力をギリギリまで使ったんだろう。

「メルノ、これ握りしめてみて」

「なんですか、これ?」

 ヴェイグに渡すのよりはかなり小さいけど、魔力の球体だ。メルノは戸惑いつつも、言われたとおりに握りしめた。

 薄い光が一瞬メルノを包んで消えた。魔力は無事渡せたようだ。劇的にとはいかないまでも、顔色がよくなった気がする。体力も消耗してるんだろうな。


「……! わ、これ、魔力ですか? どうやって?」

「帰ったら色々説明するよ。マリノは……大丈夫そうかな」

「うん!」

 実のところ魔力量はメルノよりマリノのほうがずっと多い。召喚魔法はかなりの魔力を使うのに、まだまだ元気そうだ。マリノの頭をくしゃりと撫でると、無邪気な笑みを浮かべた。


 辺りを見渡せば、ティターンの死体は一つも残っていない。代わりに、アイテムが落ちている。

 気配察知にも魔物は引っかからない。


 町を守れたみたいだ。

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