5 魔物倒したらステータスめっちゃ上がった
難易度Gのクエスト、魔物討伐。対象は、ゴブリン3匹。
戦闘の情報は、ギルドカードに魔法で記録される仕組みだ。便利。
この世界の魔物には2つのパターンがあって、1つは野生動物が瘴気とか邪気とか、良くないものに当てられて魔物化する例。もう1つはゴブリンのように最初から魔物として存在しているもの。魔物の発生原因は様々で、動物のように繁殖している場合もあれば、何処からともなく湧いてくることもある。
……という話を、クエスト地点へ行く道すがら、ヴェイグにレクチャーしてもらった。
“魔物の多くは他の生き物を問答無用で殺しにかかってくるからな。情けは無用だ”
「わかった」
とはいったものの、日本にいた頃、虫以外の生き物の命を奪った経験なんて無い。
腰にはヴェイグの短剣を装備してある。僕は左利きなので右に装備しなおさせてもらった。
これでこれから、何かを殺すのかと思うと、気が重い。
進むにつれて無口になる僕を、ヴェイグは急かすでもなく、励ますでもなく、ただ一緒にいてくれた。一緒なのは一身上の都合で仕方のないことではあるんだけど。
町から小一時間ほど歩いただろうか。不意に胸のあたりがザワザワしてきた。何かがいる気がする。
こっちだ、と思う方向を見ると、遠くに動く影を見つけた。
「あれかな」
“そのようだな。しかし驚いた。随分離れた魔物をよく見つけたな”
「急に胸がザワザワしたんだよ」
“その感覚は気配を察知したものだな。よく覚えておくと良い”
「うん。でも、僕こんなに目良かったっかな」
遠くにいる魔物の様子が、はっきり見える。
最後に視力検査したのはいつだったかな。眼鏡はギリギリ必要ないって程度のはずだ。
近づいてヴェイグにも確認してもらえば、それはゴブリンで間違いなかった。
「どうすればいい?」
“まず、アルハのやりたいようにやってみろ”
ヴェイグ先生のお言葉に従い、僕なりのやり方を考えながら進む。
いきなり正面からは御免被りたいので、木や茂みを掻き分けながらこっそり近づいた。なるべく音を立てないように注意はしたけど、向こうはこちらに全く気づかない。
こそこそと回り込み、すぐ近くの茂みに潜むことに成功した。短剣は抜いておく。
相手は全部で5匹。昨日の酒場では、相手が複数だというのを完全に忘れてて情けないことになった。
今回はしっかりと、全部の位置を確認して、近くから順に……と頭の中でシミュレートする。
2、3回しっかりと呼吸して、覚悟を決めて、茂みから飛び出した。
1匹目の首を刎ねても、他の4匹はまだ動かなかった。2匹目の首も刎ねて、3匹目に向かう。
そこでようやく、僕に気づいたようだ。2匹が棍棒や手斧を振り上げ、ゴブゴブと声を上げながら近づいてくる。
しかし、そのころには3匹目の首に突き刺した短剣を引き抜いていた。さっき倒したどれかが落としたナイフを右手で拾い投擲する。牽制のつもりだったのだが、運良く4匹目の額に突き刺さった。5匹目の手斧を短剣で弾いて、頭を蹴りつけて砕いた。……いや、まさか砕けるとは思わなかった。
まだ息のあった4匹目に止めを刺して、初めての戦闘は終了した。
“よくやったな”
ヴェイグの声で我に返る。いや、ずっと意識はあったんだけど、無我夢中だった。
ゴブリンたちの死体は空気に溶けるようにスっと消えていった。後には色々な物が落ちている。ドロップアイテムってやつだろう。
魔物を倒しても死体が残らないのは、正直ありがたい。でも、殺した直後の死体を見ても、ショックはなかった。かなりグロテスクにしてしまったやつもいたのに。
「意外と、平気だった」
“ゴブリンは弱い相手だからな。一般人でも1対1なら……”
「いや、そういうことじゃないんだ」
そこからは言葉にできなかったけど、ヴェイグは何か察してくれた。
“魔物は殺せば消える。俺たちのような人間や動物とは
「そっか……」
ヴェイグが気を遣ってくれてるのはよくわかる。
だから、気持ちを切り替えて、アイテムを回収することにした。
「ナイフと手斧と……この石は?」
拳より二周りほど小さいくらいの灰色の石が落ちていた。石ころにしては妙にキラキラしていたので、念の為に拾ったやつだ。
“
「ナイフとかは置いてってもいいかな」
“放置していくと、別の魔物が拾って武器にしてしまう。要らないものでも持ち帰るのがクエストの作法だ”
「そういうことなら……でも本当にどうしたらいいの? これ」
ゴブリンたちの武器はボロボロで、直して使うのも難しい状態だ。
“部品や金属部分は再利用できるからな、買い取りする店はある。それすら難しくても、ギルドが引き取って適切に廃棄してくれる”
「なるほど」
納得してアイテムをバックパックに詰めた。
“それにしても、武器をとったことはないと言っていたな? そうは見えなかったぞ”
「この短剣すごくよく切れるからね」
“手入れを欠いたことは無いが、そこまでの切れ味のものではないはずだ”
「えっ、てっきり短剣の性能が良いのかと」
“先程の気配のことといい、ステータスを確認してみないか?”
「魔物を倒すとステータス上がるんだっけ? 見てみる」
+―
| 日暮川 有葉
レベル:2
生命力:10120/10120 魔力:10030/10030
筋力:10012 敏捷:10009 運:10010
属性:なし
魔法:レベル1
スキル:全 [解放済:生命力補正 魔力補正 筋力補正 敏捷補正 運補正 体術の極み 武術の極み 必中 気配察知 弱点看破 鋼の精神 千里眼 順風耳 隠蔽 潜伏 ドロップ確率超上昇]
いや、待って。
「待って」
“何だ?”
「あ、いやヴェイグに言ったんじゃないんだ」
他人のステータスは見ることができないので、ヴェイグには僕のステータスが見えてない。
口頭で出来る限り伝えてみた。
“いや、待て”
ヴェイグからも待てが出ました。
「そうなるよね」
“なるな……これは。筋力・敏捷・運は一つでも1000あれば伝説級の人物だ。それが全て1万超えとはな”
「そうなんだ……ってか、スキルの解放済ってどういうことだろう?」
“解放されたから使えた、にしては解放の時期がおかしいな”
「最初に気配察知とかできてたよね」
“アルハに必要なスキルがその都度解放されている、と考えるのはどうだ”
「都合が良すぎない?」
“うむ。便利、上等ではないか”
「……そうだね」
僕たちは深く考えるのをやめた。
“一先ず狩りを続けようか”
「うん」
今回のクエストは「ゴブリン3匹討伐で1回達成」なので、5匹倒したということはあと1匹倒せば2回達成になる。
近くに気配はないので、再び森の奥へ向かって歩き出した。
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