6 得意なものが皆違って皆良い
別の気配が見つかったので、そちらへ向かう途中、ヴェイグが交代を要求してきた。
「いいけど、どうしたの?」
“肩慣らししておきたい。それと、スキルが使えるかどうか試したい”
「なるほど、じゃあ」“はい”
「即時に交代するのはやめないか」
どれだけ早く入れ替われるか、ひそかにタイムアタック中だ。
“僕もヴェイグが魔法使うとこ見たい”
「わかった」
◆◆◆
ステータスを確認。
+―
| ヴェイグ・ディフ・ディセルブ
レベル:25
生命力:5082/5082 魔力:5056/5056
筋力:5050 敏捷:5070 運:1020
属性:全
魔法:全 [解放済:火炎 熱気 治療 能力上昇]
「ん?」
目を擦ってみたが、表示は変わらなかった。
“何かあった?”
「俺のステータスもおかしなことになっている。アルハほどではないが」
口頭で伝えると、アルハから“待って”が出た。ひとは驚くと何かに待ってもらいたくなるのだな。
“いやでも、ヴェイグだって転生してるんだからさ。異世界からじゃないけど”
「アルハは世界を跨いだ分、付加効果がより大きいということか?」
“死んだ覚えは本当に無いんだけどなぁ”
「考えても分からんな。ならば、動くとしよう」
“そうだね”
アルハが新たに察知した気配は3体のゴブリンだった。
俺にこいつらの索敵はできなかったので、スキルの恩恵は受けられないと考えたほうが良いだろう。アルハの希望に沿うためにも、魔法で倒すことにする。
ゴブリンどもは固まっているので、火を放てばまとめて燃やせるだろう。だが、ステータスの『魔法:全』がある。先程のアルハのように積極的な戦い方をすれば、何か起こるかもしれない。
以前は不得手にしていた水を使うことにする。気づかれない距離を取って、右手に魔力を集める。なるべく早く鋭く、的を貫くイメージを描いて溜めた魔力に乗せる。
狙いを定めて、解き放つ。水の槍がイメージよりも格段に疾く飛び、1匹目の頭を貫いた。
魔法は一度できてしまえば簡単だ。すぐに2撃目、3撃目を放ち、ゴブリンを倒しきった。
“おお~”
アルハが感嘆の声を上げる。素直に称賛されるのは嬉しいものだ。
ドロップアイテムを拾いつつ、ステータスをもう一度確認する。[解放済]のところに[水流]が増えていた。
「やはり、使おうとする意思が引き金になるようだぞ」
[全]とは、全て使えるということではなく、全て使おうと思えば使える、と解釈するものなのだろう。
“なんでも、って言われると逆にどうしたらいいかわからなくなるなぁ。一覧でもあればいいのに”
「やってみて不利益はないだろう。気にせず過ごせばいいのではないか?」
“それもそうだね”
「ところで魔法は使えそうか?」
「やってみたいから替わるね」
“ついに事後承諾になったか……”
◆◆◆
スキルや魔法の試し打ちがてらゴブリンを倒し続けていたら、討伐数が100匹を超えた。
3の倍数に嫌われたらしく、中途半端な数になったけど、日がだいぶ傾いてきたので町に戻った。
「クエスト達成回数35回分の報酬はこちらになります」
アルハは175000エルをてにいれた!
冒険者ランクがあがった!
ランクアップ条件は「難易度Gのクエストを1年以内に10回達成」だったので、ランクも上がった。
「? ……なんか、あちこちから視線を感じるんだけど」
ギルドにいる他の冒険者からジロジロと見られている。
“新人が1日で35回もクエストを達成すれば、注目を集めるのではないか?”
個人情報は守られてるのに、報告や報酬の受け渡しは筒抜けなんだよな。
とにかく、見られ続ける趣味はないし、他に用事もなかったからその場を後にした。
ドロップアイテムの封石は、今のところ魔道具を作る予定はないので換金することにした。他のガラクタも鍛冶屋や道具屋へ持っていったら、結構買い取ってもらえた。単価は安かったけど数はあったから、全部で10万エルくらいになった。
「これってどうなの?」
金銭感覚がわからないので、ヴェイグに訊いてみる。
“難易度Gのクエストを1回達成すれば、10日は飯にありつける、と聞いた。”
ええと、10日分の食費が5千エルか……。
「1年半くらい食費に困らない計算だね。1年半!? ゴブリンを1日倒してただけで1年半暮らせるの!?」
“宿代は計算に入れておらんぞ”
「いや、それでも……。あ、宿、今日はどうしようか?」
ギルドの個室のベッドは寝心地がよかったけど、泊まりたいって言ったらあの受付さんがまた無料で泊めてくれそうで、さすがにそれは気が引ける。
ここは他の冒険者に聞いてみようと、近くにいた人に声をかけてみた。
「すみません、ちょっといいですか?」
生成色のローブに木の杖という、いかにも魔法使いという感じの女性が振り向いた。もうひとり、水色のローブを着た10歳ぐらいの女の子と手をつないでいる。二人ともシルバーブロンドの真っ直ぐな髪をしているから、姉妹かな。
「なんでしょうか?」
藍色の瞳に真っ直ぐに見られて、内心慌てふためいた。いきなり女性に話しかけるなんて日本じゃやったことなかった。冒険者の格好だけ見てたからうっかりしていた。けど、女性が話を聞いてくれるふうだったので、勇気を出して続きを話す。
「このあたりでおすすめの宿屋とかありませんか?最近この町に来たばかりで、よくわからないんです」
噛まずに丁寧に言えたし、なるべく爽やかを装ったから不審者には見えなかった、と思いたい。しかし、女性は顔を曇らせた。
「私たち、この町に自宅があるので、宿屋さんにお世話になったこと、あんまりないんです」
そうか、地元民もいるのか。それなら宿屋は詳しくないだろうなぁ。
「でも知り合いのおじさんがやってる宿でよければ、ご案内します。おじさんはいい人で、宿屋の評判も良いので大丈夫だと思います」
そう言ってくれたので、素直に案内してもらった。
「おじさん、お部屋あいてますか?」
女性が先に話をしてくれたので、すんなりと今夜の宿が決まった。
「ありがとう、助かったよ」
「いいえ、私もお客さんを連れてきてくれた、って、お礼を貰えました」
と、小さな革袋からクッキーのようなものを取り出して見せた。妹さんの方は、大きなロリポップを握ってニコニコしている。
「僕もなにかお礼を…」
「そんなつもりじゃ…。貴方も冒険者ですよね?どこかで困ってる方がいたら、助けて差し上げてください」
親切は巡るってやつか。いい人だ。
「じゃあ、そうするよ。本当にありがとう。しばらくこの町にいるから、力になれることがあったら言ってね。僕はアルハっていうんだ」
「私はメルノ、こっちの子はマリノです」
マリノがロリポップを持っていない方の手をぐいっと出してきたので、握手してみた。マリノがにっこり笑うので、こちらまで笑顔になれた。
蛇足だけど、僕のストライクゾーンは年上です。
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